BLOG - 高山かおり(Magazine isn’t dead. 主宰/ライター)

もう二度と行くことのできない場所と会えない人のこと #3

なぜか忘れられないラーメンの味が2つある。そして、それはどちらも20年以上前の記憶だ。

私にとって今は非日常である温泉は、昔は日常のものだった。故郷の北海道河東郡音更(おとふけ)町には、かつて世界で2箇所しかないといわれていたモール温泉が湧き出る十勝川温泉がある。実家から車で15分ほどの距離なので、小学生の頃は何度も祖父母と十勝川温泉に行った記憶がある。

その時は温泉が身近にあることのありがたみなんて微塵もわかっていなくて、楽しみだったのは温泉からの帰り道に寄るラーメン屋さんだった。「宝来(ほうらい)」という地域に当時、ラーメンを出す食堂のような店が3、4軒あった。もう店の名前すら覚えていないが、あの時夢中になって食べたラーメンの味を、舌が覚えている。美食家が集うような有名店では、決してない。本当に普通のラーメンなのだが、当時よく食べていた味噌ラーメンの味を、なぜかずっと記憶している。それから数えきれないほどのラーメンを食べているがあの味を超える味噌ラーメンにまだ出合えていない。不思議な話である。

もう1つは、函館で食べた塩ラーメンだ。ラーメンは圧倒的に塩派である私にとって、函館は聖地。どこで食べても塩ラーメンがとにかく美味しい。潮風がなびく港町だからなのか。海が見えない町で育った私にとって、函館はすべてが新鮮に映ったし、異国情緒あふれる街並みに当時強い憧れを抱いた。中学生の頃までは、修学旅行や大会などで何度も訪れる機会に恵まれたから、海沿いの道路をひたすら歩いたりもした。これまた残念ながら店名を覚えていないが、宿泊した駅前のビジネスホテルの裏にあった古びた小さなラーメン屋で食べた塩ラーメンの美味しさがなぜか忘れられない。競技を控えた前日の夜、母とラーメンを食べようとホテルを出て、たまたま見つけた一軒に入ったのが正解だった。透き通るようなスープに縮れた麺、程よい塩気が緊張していた身体と心をほぐしてくれるようだった。

あれから20年以上が経った今、大抵のことはインターネットで検索すれば調べられる。しかし、ネット黎明期だったあの頃の(しかも田舎の)ことは調べても答えにたどり着けないし、GoogleMapにだって載っていない。

でも。

こうしてお店の存在とあの味を私のように覚えている人はたくさんいるのだと思う。それは決して表面には出てこないかもしれないけれど、いつだって誰かの記憶の中でずっとずっと生き続けているはずだ。

 

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