東京のことを英語圏では「TOKYO」、ドイツ語・イタリア語・スペイン語などの非英語圏では「TOKIO」と表記するらしい。
編集部の須藤です。
れっきとした言語による揺れですが、なんだか「TOKIO」のほうが気取ってない感じがするし、戦後の東京がんばるぞ感がでているように思えるのは私だけでしょうか。
なんでそんなことを考えていたかというと、「“TOKIO” ART BOOK FAIR 2026」に行ったからでして。今回のブログはその模様をゆるっとレポートします。



どういうイベントかというと、TOKYO ART BOOK FAIR(以降TABFと略す)が企画する、“アートブック出版におけるネットワークを軸として構成されるフェア”だそう。アートブック、ZINEなどの出版物を通じて独自の活動を展開する、国内外のアーティスト、出版社、書店、ギャラリーなど、52組が集いました。
TABFとの違いは、出展者による招待制の出展形式を採用している点。TABFより16組の出展者が選出され、それぞれさらに2組の招待をして出展しています。プロたちがおすすめするプロが集まる会というわけ、なかなかギークです。場所は2000冊以上の蔵書がある芝パークホテルとこれまたユニーク。
と概要はほどほどに、個人的に気になったブースを3つご紹介します。

1つ目は「New High Land」。2008年に台北で設立されたインディペンデント出版社の「nos:books」からのお誘いで出展。
今年から始動した同じく台北の出版プロジェクトで、過去2年間のあいだに刊行していた出版物の販売のほか、自らリソグラフ印刷やオフセット印刷をして制作した書籍も販売していました。

購入したのがこちら。台北とニューヨークを拠点に活動するアーティスト・Luc Jolivetが、台湾・ニューヨーク・パリの日常を捉えた一冊です。単なるスナップ写真ではなく、「Pirouette」というタイトルが意味する通り、めくるごとにありふれた景色が「回転」して、観るひとに新たな刺激を与えてくれます。

隣り合わせでおかれた写真が呼応していたり、噛み合わなかったり。赤いプラスチックの綴じ具がざっくりと隔てる世界はなんともおもしろい!日常のシュールな場面を適度な距離感で切り取るのがうまい。台湾映画でいえば、エドワード・ヤンやツァイ・ミンリャンあたりもそういうのがうまかったなあと思ったり。昔に摂取したカルチャーがこういう場面で引っ張り出される感覚、アートブックフェアならではです。

ブースの写真を撮り忘れたため、看板写真のみで…。
2つ目は「00123」。マレーシアのクアラルンプールを拠点とする、アートブックとアーティスト出版物に特化したキュレーションプラットフォームです。今回は日本のアーティストブックのレーベル「SAMY PRESS」からのお誘いで出展。
彼らは、書物を探究のための形式と捉えていて、書物を構成するすべての要素の間でいかに思考が展開していくかを探っているそう。ブースを見渡すと、物事を1冊で結論づけるようなものではなく、読者の探究の一助になるようなものばかり。

なかでも、スイスの「ブルーノ・ビショフベルガー画廊」が制作した、過去のギャラリーのプログラムに関する広告をまとめた1冊が気になりました。



どれもスイスの伝統的な生活風景をもとにつくられていて、動物と人間の距離感を写しつつ、強度の高い写真ばかり。こねくり回さない日常の写真ほど、美しいものはありません。
そしてこちらの一冊、ぐるっと一周してから買おう〜と頭の中のリストに入れていたのですが、うかうかしていたら売り切れてました(泣)。直感を信じてすぐに買えばよかった……。

最後はホストとして出展していた、ドイツのハンブルクを拠点に活動するアーティスト、写真家の「volker renner」ブース。


過去に30タイトル以上も書籍を刊行している彼ですが、なかでも気になって購入したのが『Ein Prozess』。内容は、2021年から2022年にかけて行われた、ジョニー・デップとアンヴァー・ハードの元夫婦による裁判の記録です(!)。

裁判の実際の録画を切り出した画像が並べられていますが、そこに作者の主観はなく。それらのイメージからは、俳優を生業にするふたりが、メディアを利用して世の中の印象操作をしていることが読み取れます。スターは図太い。
まるで映画のような緊張感のある絵なのに現実の話、という皮肉も。
そのほか、気になったものを写真で振り返ります。

韓国はソウルのグラフィックデザインスタジオ「DDBBMM」のブースにあった、単語付きのルービックキューブ。偶然並んだ言葉たちを書き起こすと、不意に意味が立ち上がる?

来場者自身がフェアのカタログを制作できるスペース「Printing Room supported by Penco®」。思い思いの配色や重ね方、綴じ方で、世界にひとつだけのカタログが完成します。

カタログ制作ブースには、リソグラフの印刷機が。

好きな写真を発注すると、その場で印刷してくれる。

スマホ画面で見るつるっとした写真もいいけど、趣あるリソグラフは写真に雰囲気を纏わせてくれる。

会場の装飾は、「Library Hotel」という芝パークホテルが掲げるコンセプトを活かしたそう。こちらはホテルのルームキーをかけるキャビネット!

フードもあり。茶沢通りにお店を構える「幸福食堂」の香麺。ハオチー!
現代人の1日に受け取る情報量は、平安時代の一生分(約30年〜50年程度)に匹敵すると言われていますが、この日に限っては、きっと平安時代を生きたひと×3人分の情報量だったと予想します。
そんなアートブック沼のなかで、何を手にとってどれを買おうかと考えていると、ふしぎと自身の尺度がはっきりしてくる。そんな感覚はスマホでスクロールする日常にはありません。
飛び交う英語を聞いたり聞かなかったりするのも、これまた風情かな。“TOKYO”ほど国際的になれない自分ですが、“TOKIO” マインドで楽しんだ1日でした。