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BLOG - 高山かおり(Magazine isn’t dead. 主宰/ライター)

もう二度と行くことのできない場所と会えない人のこと #2

流しっぱなしになっていたSpotifyから、懐かしい歌声が聞こえてきた。でも初めて聴く曲だ。玉ねぎを切り刻んでいた手を止めてiPhoneを確認する。アーティスト名に「Butch Walker」の文字。さらに調べると新譜だった。Spotifyで新曲のリリースを知ることになる日がくるなんて。いや、いまの若い子はみんなそうなのかもしれない。高校生の頃の私に、文明の進化がいかなものかを教えてあげたい。

当時の日本の女子中高生のきっと多くはアヴリル・ラヴィーンに夢中だったんじゃないかと思う。かくいう私もその一人で、クラス中のみんなでアルバムを回して聴いていた。特に当時好んで聴いていたものの中に『My Happy Ending』という曲がある。この楽曲提供をしていたのがButch Walkerで、ここで私は彼の名を知った。CDショップに行くと、ちょうど新譜が出るタイミングだった。

ある人が、Butch Walkerは90年代にMarvelous 3というバンドを結成していたと教えてくれた。聴いてみたくなってCDショップへ行ったものの、田舎だったこともありすでに彼らのCDは売られていなかった。TSUTAYAのレンタルも確か探したがなかったはずだ。そうするとその人は、Marvelous 3のCDアルバム3枚をCD-ROMに複製して私にくれた。当時はカセットテープかMDかCD-ROMに録音したものだ。カセットテープもラメが入っていたりなどかわいいものがたくさんあったと記憶している。

それからその人はライブの音源などのミックステープをくれたり、自分が好きだというニルヴァーナについて教えてくれた。私はそのとき、初めてカート・コバーンの存在を知った。「グランジ」と呼ばれるファッションについて知ったのもそのときだ。

90年代を確かに生きていたけれど、当然ながら自分の知らない世界がそこかしこにたくさんあったのだということを、17歳の私は知った。そこからだと思う。とあるきっかけで出会った物事を深掘りする愉しさに気づいたのは。扉を開くと予想もつかないものに繋がる面白さを教えてくれた人。

あの人はいま、音楽を聴いているだろうか。

もう住む世界が違うその人とは、いまこの瞬間に同じ音楽を聴くことはできないけれど。

そんなことを考えながら包丁を握り直し、玉ねぎをみじん切りにした。涙があふれて止まらなかった。

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