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BLOG - 蔡 俊行(フイナム発行人)

憩わないならもういかない

 春の陽気につられて、所用ついでに代官山アドレスまで出かけてみた。

 金曜日という平日の午前中とはいえ、相変わらず閑散とした様子で、あとでできた代官山蔦屋書店とは濃いコントラストを描いている。

 若い人は知らないかもだけど、ここは同潤会アパートという共同住宅があった。関東大震災の救済として建てられたもののひとつだ。いまの代官山アドレスの敷地いっぱい緑で溢れ、森の中に鉄筋コンクリートの2~3階層の建物が点在していた。銭湯や食堂もあり、両方とも利用させてもらったことがある。

 戦後の日本の開発によくある効率重視で、ここの森はすべて伐採され、いまのアドレスの姿になる。オープン直後はそこそこ話題になり人も集まったが、殺風景なコンクリートが敷き詰められた冷たい施設、呼び物になるようなテナントもなく、いまの寂しい状態になった。

 この開発の最大の失敗は、効率のため価値ある森を伐採したことにある。

 おかげで「憩い」のスペースがまったくなくなってしまって、人が滞留できなくなってしまった。

 たった一脚のベンチですら、木々の下に置いてあるものと、陽を遮るもののないコンクリートの上にあるのでは、利用者の気持ちも違ってくる。

 その点、代官山蔦屋はこうした開発のよきモデルである。

 同じような施設が、恵比寿にもある。サッポロビール工場跡地に建てられた、恵比寿ガーデンプレイスだ。

 ここも開店当初のみ話題になり、次々開業する他所の施設に浮動層を奪われ鳴かず飛ばず。しまいには百貨店不況の煽りを喰らって三越が撤退。しばらくゴーストタウンのようだったけど、やっとテナントが決まって、地下にスーパーなどの食料品店、1階にノースフェースなどの物販店が入った。

 しかしここも、緑が少なく殺風景な施設である。

 いつのまにか中央の広場につながるスロープに街路樹的なものを植えているが、まったくの迫力不足。いつも思うのだがまったく「憩え」ない。

 サッポロビール跡地なのに緑に囲まれたビアレストランを作って、一年中、オクトーバーフェスタのような状態を作ろうなんて誰も開発チームは思わなかったんだろうね。

 一坪いくらで貸して、年間収入がこれで、利回りがこうとかそんな頭しかないから、人が集わないどうしようもない施設になる。

 こういう開発計画、次にどこかあるんだったら一丁噛ませてほしいと思う。手弁当でもやりますよ。

「憩い」って大事よな。 

 コンマリはときめかないなら捨てるだけど、ぼくは「憩わ」ないならもういかない。

 

 

 

 

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