僕は自分を形容するとき「早すぎた現代っ子」と冗談みたいに言うのです。
小学校に入学してすぐの二学期頃、父親が新築の戸建を購入し駅前からすこし離れた郊外の学校へ転校することになった。
それまでの遊び場は、繁華街や駅ビル屋上にある遊戯場。マクドナルドで買ったポテトを食べながらゲームをするような、いまの子供たちとあまり変わらない(よりも荒んでいる)生活スタイルだったと思う。
それが引越したあたりは閑散として何もなく、新しい学校にも馴染めなくて不登校になった。朝、学校に出たフリをして押入れやソファの裏に身を隠し、親の気配が無くなった頃合いをみてテレビをみたり悠々と過ごす。
ある日、そこへ隣のアパートに住む同じクラスのコバヤシ君というのが訪ねてきた。はじめは居留守を使っていたが、来る日もくる日も「シガくーん、あそぼー」とやってくるので、ついに根負けし嫌々外に出て行った。
コバヤシ君の遊びというのは、近くの川の土手を段ボールで滑ることやドブ川でザリガニを釣ることで、刺激もなく僕はすこしも面白くなかった。
コバヤシ君は地元の強豪クラブサッカーチームに所属していてそこのエースだった。彼のお父さんは左官職人だがギャンブルばかりのフーテン。しかしお母さんはしっかりした人で子供に熱心だった。
夕方になるとそのお母さんが見守るなか、コバヤシ君は毎日町内を三周するランニング訓練をしていた。お母さんがストップウォッチを持ち、毎日のタイムを計る。そして何故かコバヤシ君のランニングスタイルは、素足。寒い日も暑い日も、雨でも雪でも、素足。正直、謎すぎる親子だった。
またとある日、コバヤシ君からそのランニングを一緒にやらないかと誘われた。冗談じゃないと思った。けれどまた得意の来る日もくる日もの勧誘に根負けしてしまう。そして僕もやはり素足。素足でアスファルトを町内三周。
しばらくその謎の訓練を一緒に続けるうち、僕も体力がついてタイムが上がってきた。そして、ついにコバヤシ君を抜いてしまう。
それまでの僕は体育やスポーツにはまったく興味がなく、向いてる自覚もなかった。父親に無理矢理入れられた少年野球もサッカーも面白くなくてすぐ辞めた。チームや団体プレーが嫌いなんだと柔道や空手道場に入ったけど、それも続かなかった。
だけどこの訓練のおかげか、校内の持久走大会は毎年トップ。それは小学三年から高一あたりまで誰にも抜かされなかった。スポーツテストや身体測定の結果も同じだった。とくに跳躍力やバネはバスケ部のやつよりもあり両手でポストを掴めた。
そもそもの身体的ポテンシャルはあるんだと。それでも、部活はなにもしなかった。体育教師や部活の顧問に「放課後グラウンドで待ってるから」なんて熱意にも、無視してヤマハSR400に跨って帰ってしまう(もちろん禁止)。
よく言えば自称「天才ですから」の桜木花道タイプ。ただ性格や口の悪さは流川ですかね。
コバヤシ君、元気かなあ。笑
そんなわけで高校でやっとスケボーやサーフィンと出会ってハマるのですが、それまでのルールを押しつけられるスポーツ然としたものが本当にダメで。
そういう意味では息子のやるパルクールはスケボー的な感覚に限りなく近いストリートスポーツ。動きは器械体操と混同されがちだけど、似て非なるもの。ルールや形もなければ、採点もない。
街中にあるものをどうメイクするか、自分なりにイマジネーションして遊ぶ。技だって一応名前はあるけど「それかっこいいね」でいい。
昔からスケーター出身のアーティストやクリエイターが多いのも、そんな自由な遊び心にある。
これ、10年、20年前にあったらよかったな、ハマってたかもな、とアラフィフおじさんは思うのです。
息子に読め読め言われ、ついに読みはじめた『鬼滅の刃』。おもしろすぎて19巻まで一気読み。やっぱり少年ジャンプは永遠のバイブルなんですね。