先日、とある企画の打ち合わせで渋谷NHKに呼ばれました。まさか庭師になってもまた西口玄関を踏み入るとは(職員やスタッフ、出演者はだいたいここから)想像しなかった。詳細は言えませんが、あくまで庭師として関わらせて頂くということです。
お腹が空いていたので、待ち合わせの時間より少し早めに入館し迷わず大食堂に向かいました。たしか巨大な施設の中には3つほど食堂があるはずで、1階の大食堂はいちばんメジャーというか番組製作フロアと同じフロアにあるので出演者やスタッフはほぼここを使います。
目当ては江戸前寿司。松竹梅と三ランクあってネタの種類はありきたりだけど、注文してから職人さんが目の前で握ってくれるから美味しい。なのにいちばん高い「松」でも1030円。もし訪れる機会があれば是非。
しかし懐かしい場所でした。もちろんスタイリスト時代にも年末恒例のアレだとか、ほかにも何度か仕事で訪れたことはあります。
が、それよりもスタイリストになる前に美術さんとしてずっとここで働いていたので、食堂や施設内部にやたら詳しいのはつまり元職場だったから。
驚いたのはあの頃となにも変わってないこと。打ち合わせ室やリハーサル室も、朝ドラや大河ドラマの製作フロアも、そこの役者さんでぎゅうぎゅうの喫煙ルームも、スタジオも倉庫もなにもかもが昔のまんま。
NHKの内部というのは、食堂はもちろん喫茶店、本屋、雑貨屋、コンビニ、旅行代理店まであり、果てはスタッフが泊まれるカプセルホテルみたいな寝室や風呂場も。聞いた話ではむかしどうやって入りこんだかホームレスが暮らしていたという噂があるほどで、その気になれば一歩も外に出ないで済みます。
俳優やタレントさんの仕事で民放テレビ各局出入りしましたが、これほど充実したところはないかな。さすが国営施設。
そんな場所で仕事をしてました。ちょうど成人式で休んだ記憶があるから19の終わりかハタチの時。
担当のひとにそんな思い出を話すと、知ってるひと居るんじゃないですか?と。いやまさか、だって25年以上前ですよ?
とかなんとか、朝ドラや大河のスタジオフロアに行ってみたところ、、いました何人もw しかもまだ僕の顔を覚えてたりして。
「あれ!?スタイリストになったんじゃないの?」「いえ、いま庭師です」
もうなにがなんだか、です。
19、20才の頃。
腰まで届きそうな長髪をして、渋谷、原宿を毎日カフェレーサーバイクでうろついたり、ナンパしてシェーキーズでお茶したり。ただのチンピラでした。なんとなく渋谷の服飾学校に入ったもののつまらなく一年で辞め、たまに表参道の露天商でゴローズのニセモノを地方の学生相手に売りつけるバイトとか(その金でホンモノを買う)。
趣味のバンドはいいとこまで行ったけど、あの時代にパンクじゃプロにはなれず、でもまともに働くことなんて1ミリも考えなかったクソみたいなガキ。
いわゆる当時のファッション雑誌ではボクらは渋カジとかチーマーだとか言われてましたが、古着屋なんかでバイトは考えなかったし、しいて言えば有名人にでもなってテキトーに生きていくこと。
あ、だったらテレビ局にでも出入りすればいいコネできるかも? NHKなら近いしそのまま帰りセンター街で遊べるしって、我ながら名案。馬鹿丸出しの安易な考えですね。
ただ天下の国営放送局にボクのような輩がいきなり現れたのは衝撃だったと思います。廊下でたまたま出くわした某国民的アイドルに平気でメンチ切っちゃうような野良犬ですが、噂の美術さんとしてずいぶんかわいがって頂きました…。
美術さんと言ってもいろいろあって。いわゆるセットをトンカンやるのは大道具さん。ボクがやったのは装飾。大道具さんが家を作る大工さんならば、その出来上がった家の中をひとが暮らしているように見せるのが装飾の仕事。家財道具からはじまり、お茶碗や鉛筆、壁のポスターに至るまでありとあらゆる生活のものすべてを扱う。言ってみればインテリアスタイリスト。撮影中には食卓を囲むシーンならテーブルの上の食事も装飾さんが用意するんです。
なので台本が上がるとまず読み込んで、時代背景や登場人物の状況や性格を理解する。打ち合わせや本読み、リハーサルに立ち会って、どんな雰囲気にするかイメージを膨らませる。食事なら献立も考えます。
いざやってみると、とても大変だけどそれ以上におもしろく、やりがいがありました。俳優、女優さんたちやプロの技術さんたちの姿。当て所なく渋谷原宿をふらふらしていた時には味わえなかった世界。
それ以来つるんでいた友達ともだんだん疎遠になり、ボクはテロップに名前が載るまで成長し、どっぷりその世界に24歳くらいまでいたのかな。
その後、スタイリストのアシスタントになるわけですがまあそんな仕事をしていたから余裕でした。寝ないでアイロンがけで泣いてるヤツもいたけど、あの仕事に比べりゃ屁でもありません。
なので社会に出て美術さんが第一章。スタイリストは第二章で、いまは第三章って感じ。
そんなわけで庭師として舞い戻ったNHK。なんだか感慨深いものがありました。という話です。