BLOG - シガアキオ(Gardener / 庭師)

niwashi

先日、庭師修行時代の後輩から仕事の頼みごとをされました。なんでも虫垂炎で緊急手術となり、なんとかお願いできないかと言う。

メンテの仕事は基本的にもうやらないけど、そこは困っている後輩の頼み。

しかも誰でもいいわけじゃなく、シガさんくらいしか出来ないという1800平米の草刈り。確かにそこらのひとでは無理と引き受けてあげました。

というか後輩に頼られるパイセンって嬉しいじゃないですか。

ただ後輩といってますが、歳はひと周り下でも、庭師としてのキャリアは彼のほうが長い。キャリアがもの言う職人世界では本来彼のほうが先輩です。

彼は名古屋出身の、全身刺青だらけのBボーイ。地元ではずいぶん名を馳せたらしく、強いヤツとケンカしたくて上京してきたという元格闘家。スキルも体力も根性もなかなかです。

そんな彼がひと周り上、しかもキャリアも下のおっさんを頼る。そういう存在でいられるのって、単純に嬉しい。

 

いままで、あまり庭師修行時代の話ってしたことがないのでついでに。

 

ぼくが居たところは都内でもわりと有数の老舗の造園屋でした。職人も総勢40人近くいる大所帯(それほどの規模はなかなか無い)。

そりゃもう昭和かってくらいゴリゴリの男社会。もちろん昔気質のおっかないベテランから、トッポい兄ちゃんまでいろんなひとがいます。

まず入った初日から「やる気がねえなら辞めちめえ」と怒鳴られました。いまどき、この現代社会でなかなかない。しかも四十のおっさんになって怒鳴られるってまずないでしょ。二十代ならそのままキレて帰ってる。完全なパワハラです。

あと元スタイリストってのも嫌われましたね。チャラチャラしたイメージとか、どうせ根性もねえオカマ野郎だろうみたいな。

まあ気持ちはわかりました。たしかに毎晩飲み歩いてたし、クラブ遊びや女遊びもしてたし、彼らの想像以上にチャラチャラしてましたしね。

だってその間、みんな我武者羅に頑張ってたわけですから。生半可なヤツはいらねえってことなんでしょう。

 

ただぼくも元々の素養や気性というか、そこで逆にスイッチが入りました。ふーん、やったろうじゃん、みたいな。

そこからは自分の半生とかキャリアは捨てました。年齢も。彼らと同等に接して、年下だろうと先輩には敬語。でなければ仕事も教えてもらえないし、上に登れません。

同じように仕事をドロップアウトしてくる年配のひともいましたが、みんなことごとく潰れてく。年齢や体力を言い訳にすれば、あっそと仕事はどんどん若手に回される。当たり前です。

気持ちは二十代。それでほんとにバリバリ二十代の若手と対等に渡り合える体力や気力がある自分にきづけました。そこは自負できます。

 

ただそういうイケイケのおじさんが気に入らない若手もいて、ある時ちょっとしたことで口論になりました。よほど癪に触ったのか、仕事が終わりバイクで帰ろうとすると、彼が道を立ちふさいでいる。「まだなんか言いたいことあんのかよ」と言えば、誰も見てない場所へ行こうと彼も言う。

彼が川崎出身といえばわかる通りなかなかのもの。「拳で語り合いましょうよ」なんて言われまして。そのままバイクを放り出し「おう、上等じゃん」みたいな僕もぼくで。その場は同僚に押さえられてなんとか収まりましたけど。

けど、四十にもなってそんなことあります?笑  拳で語り合おうって、なかなかのパンチラインでおもしろかったです。ほんとに。昭和の学園ドラマかっていう。

 

まあそんなトラブルなど多々ありつつ、日々経験を積みました。

 

庭師の仕事の楽しさって、そういういかにも職人的男っぽさのほかに、女性的感性も必要なところ。

たとえば樹木の剪定(センテイ)はどれだけ木を美しい姿に仕立てるかですが、わかりやすく言えば盆栽の姿。あれをリアルな大きさの木に登りこんでする。

たとえば松なら本気でやり始めれば一本仕上げるのに丸一日かかります。さらにそれがとても大きな、樹高10〜20メートルの赤松なんてザラにありますが、それにハシゴで登って、さらに横に5メートル張り出した枝の先端までつたう。

それが最初めちゃくちゃな恐怖。よく林業関係で巨大な杉の木に登りますけど、まっすぐ伸びた木をよじ登るのはじつは比較的簡単。高さの恐怖だけです。

その高さから、横につたうのがほんとうに怖い。枝が根元から折れれば間違いなく死にます。それをやる。ただの度胸と気合いのみで。

そうやって硬直した身体とびっしょり冷や汗とでやっとたどり着いた枝先に待ってる松葉の剪定。

たとえて言うなら、断崖に渡されたロープを綱渡りしながら編み物をするような精神状態ですか。

男っぽい度胸と、女っぽい繊細さ。

庭を造ることも同じ。力仕事でもあり、最終的に空間の美的センス。

自分の素養や経験も踏まえるとどれも無駄じゃなく不思議と向いてる気がしました。

 

そうこうして、約4、5年ですか、その40人ほどの職人の中でも十数名が精鋭としているのですが、気づけば新たなエースとしてその中に自分がいました。年齢や経験からすれば異例ともいえます。

いまも知人の庭師さんや近所の植木屋をたまに手伝いますが、どこへ行ってもまるで救世主という待遇。あの仲間たち以上にスゴイと感じるひとはなかなか出会いません。

むかしホリエモンさんが「寿司屋の修行を十年もするヤツはアホだ」と発言し物議を呼びましたが、ぼくはわりと肯定派。さらに言えばどこの寿司屋に修行に出るかでもずいぶん違うのではないでしょうか?

ぼくより経験者の彼が仕事を頼ってくるのもわかっていただけたかと。

 

以前、先輩宅での飲み会のとき、蔡さんから「おまえの噂よく聞くけどなんで?」と言われました。その時笑ってごまかしましたが、ぶっちゃけ心の中でつぶやいてました。

「仕事が間違いないからでしょ」

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