「グローブスペックス」ではいくつかのビンテージやアンティークのアイウェアを取り扱っていますが、今日は「The Spectacle」をご紹介します。
「The Spectacle」は「グローブスペックス」が1998年の創業時からずっと扱い続けているブランドですが、改めてその価値をご紹介します。
このブランドはリアルなアンティークとビンテージのメガネのコレクションです。メガネの世界では1950年代以降に製造されたものをビンテージと呼び(大体2000年くらいのメガネまで)、それよりも前に製造されたものをアンティークと呼んでいます。まずそれらをブランド化していること自体が非常に貴重です。時たま見つけたビンテージ/アンティーク アイウェアを販売しているのではなく、継続的に膨大な数のそれらを全米中とヨーロッパからも収集してアーカイブしているのです。
このブランドを創業し、今もブランドのオーナーを務めるのはJay Owens。米国ロサンゼルスを拠点にするアメリカ人です。Jayとは「グローブスペックス」を始める前、1995年にNYで知り合いました。初めは自分のキャンピングカーでアンティークショップ、メガネメーカーの古い倉庫、歴史ある眼鏡店のデッドストックなどを全米中旅して買い集め、また「アメリカンオプティカル」社や「ボシュロム」社など、主要眼鏡メーカーの全カタログも収集していったのです。20世紀に入って製造されたほぼすべてのメガネの情報をそこから収集することによって、集めてきたメガネを年代別のパーツに種別化してアーカイブを構築したのです。
それだけではなく、実際に当時それらのメーカーの勤めていた高齢の技術者を見つけ出し、当時の製造や最終の研磨、QCなどの教えを乞い、かつ当時の最終の研磨仕上げの専用機械なども入手していったのです。
さらには、1920年代〜40年代の金張りメタルフレームによく使われていましたが、今では入手が困難な「ベイクライト」樹脂の美しい鼻パッドも製造メーカーの古い倉庫などから大量に見つけ出しました。
非常に華奢で細身の金張りが多かった50年代以前のアンティークフレームは、そのようなメガネに対して当時使われていた、ネジ溝のピッチが細かくネジ頭も薄い特殊なネジの設計図を入手し、当時の規格のまま新たにネジを製造することで、当時の品質維持やアフターサービスを可能にしました。
今はJayが信頼するディーラーが全米中から継続して彼に変わってビンテージとアンティーク眼鏡の収集を継続していますが、この話から皆さんも想像できる通り、Jay Owensとは尋常でない情熱、こだわり、実行力と突破力をもった人物なのです。私が「グローブスペックス」をスタートさせる際、開業資金が乏しくなってしまった際に利益が出るまで支払いを猶予してサポートしてくれた、恩人かつ親友でもあります。
全米中から見つけ出された「The Spectacle」のビンテージとアンティークのメガネは、ロサンゼルスにあるJayの会社に届くと、まずすべてバラバラに分解され、クリーニングされた上で古いカタログ資料に基づいて年代・モデル・カラーやサイズ別に膨大なアーカイブ整理棚に収納されます。取扱店への出荷前に前述の製造最終工程の研磨やクリーニングが再度なされた上で、指定の仕様に組み上げられ、最終的な品質チェックを行なってから出荷されていきます。言わば古い眼鏡のパーツを使って、現代において再製造している様な業態なのです。そのため「The Spectacle」のメガネはサイズやカラーを変更指定して注文したり、買った後にパーツを取り寄せたりもう1本同じ物を手配することも可能なのです。それどころか保証も付いているので一定期間は通常の使用状態で何かあったらパーツ交換などの対応も行ってくれます。普通のメガネ以上に安心かもしれませんね!
「The Spectacle」にはいくつかのカテゴリーがあります。
(1)金厚張りのレギュラーコレクション:1910年代〜40年代に製造された、金を厚く張っているアンティークメタルコレクション
(2)金張りのビンテージコレクション:1950年代〜70年代に製造された金バリのビンテージメタルコレクション
(3)Zyl(ザイル)コレクション:主に1950年代〜70年代に製造されたプラスチック枠や、金張りのブロウタイプも含むアセテートを中心としたプラスチック眼鏡のコレクション
(4)スペシャリティーコレクション:主に1950年代以前に製造された金厚張りメタルの中で、一般のモデルより凝った仕様のモデルや生産数が少なかったモデルなど、より希少性の高いモデル群。50年代以前に作られた珍しいプラスチックフレームも含まれます
(5)ミュージアムピーシーズ:スペシャリティーコレクションよりも更に希少性が高いモデル群で、文字通り博物館級のメガネ達。価格もそれなりの高価となります
昨年4月に移転して新装オープンした「グローブスペックス渋谷店」にはこれらすべてより更に珍しい逸品ばかりを集めた「Special Special」と言う極めて特殊なアンティークメガネもありますが、本日ご紹介しているのは「The Spectacle」らしいコレクションの数々です。「Special Special」にご関心があればこちらのブログをご覧ください。
【金厚張りのレギュラーコレクション】
1930年代後半くらいに製造されたRimway Fullviewというタイプで当時一般的であった金の厚張りメガネ。一般的とは言え90年くらい前に作られたアンティークメガネには十分すぎるほどの風格があります! 後に出てくるスペシャリティーコレクションやミュージアムピースのアンティークと比べるとスッキリした彫金細工が施されています。
レギュラーコレクションの中にはこんな逸品も。1940年代半ばに製造された米空軍のパイロットグラス。「アメリカンオプティカル」社がメインのコントラクターとしてミルスペックで製造していたジェット戦闘機乗りのためのパイロットグラス。現在も同型のモデルは作られていますが、このアンティークは当時のままのベイクライトの鼻パッドを装備し、フレームも今はメッキや塗装であることに対して金の厚張り仕様です。ヘルメットをしたまま着脱できる様に耳に掛けるテンプルチップはストレートな抱え込みタイプでブリッジ下の両レンズ間の広がりも酸素マスクが収まる角度になっています。レンズの形や大きさもコックピットや前方の視界をカバーするのに十分なものとなっており、一般的なメガネに比べてややごついメタルパーツを採用し、かつダブルブリッジにすることで捩れなどに対してより堅牢な作りとなっています。
【金張りのビンテージコレクション】
1950年代以降はより装飾性や主張が強いプラスチック枠やコンビネーション枠が主流となっていき、メタルフレームも装飾性が高いデザインも多くなります。「FLAME」というモデル名のこのメガネ、当時は上部にアセテートのブロウパーツを取り外しできる様になっていたそうです。1950年代〜60年代に流行していたスピードラインという線状のデザインがブリッジとサイドのヨロイ金具に見られます。当時、「キャデラック」のクロームパーツや、「ゼネラルエレクトリック」社製の冷蔵庫などにもスピードラインが見られ、戦後経済の活況に湧いていたアメリカの空気感が伝わってきます。
【Zyl(ザイル)コレクション】
1950年代に入るとアセテートプラスチックを使ったデザインが多くなります。このモデルもその一つで、裏側にある蝶番の金具を固定するカシメピンと呼ばれる鋲を、表側では「アメリカンオプティカル」社のロゴである「AO」の文字を鋲飾りにして隠しています。1950年代〜60年代にはこの様な装飾的な鋲飾りが付いたデザインが多くなり、こういったタイプのデザインを「VIPセーフティ」と呼んでいました。
日本で言う「ボストン型」の形のメガネはアメリカではP3と呼ばれています。全体には先の「アメリカンオプティカル」のVIPセーフティの様なデザインが多く、P3のタイプは少し限られます。
下の写真は「レイバン」を作っていた「ボシュロム」社のブロウフレームで、「ボシュロム」はこの様な十字の秒飾りをつけたフレームを多く発表、当時の「ボシュロム」社を象徴するディテールとなっていました。
ビル・エヴァンスが掛けていたこのフレームも1960年代に製造されたアセテート枠です。
【スペシャリティーコレクション】
1920年代〜40年代に一般的であった通常の金厚張りのメタルに対して、もっと凝った彫金細工が施されたモデルや生産数が少なかった商品群などを、より希少性の高いコレクションとしてカテゴライズしたシリーズです。下の写真の「Berwyn」は当時の名作の一つで、細身で上品なフレームですが上面やブリッジの下側などあまり目につかない部分まで、美しくこだわった彫金が施されています。
【ミュージアムピーシーズ】
文字通り博物館級の非常に希少なモデル群で、多くは当時の量産品ではなく裕福な層のユーザーが別注して特別に作らせた逸品など。このモデルも一見はスッキリとしたシンプルなデザインですが、ブリッジをこの様に高い位置で一文字にするデザインは、このフレームが作られた1920年代には極めて珍しい仕様です。そして一見シンプルなブリッジの上面には上品で美しい彫金細工が施されており、掛けて少し下を向いた時にその見事なディテールがあらわになるよう作られています。
「The Spectacle」の美しく魅力的なデザインはこれらの他にもたくさんあります。渋谷、代官山、京都にある各「グローブスペックス」の店舗でご紹介していますので、ぜひ店舗で実際のビンテージ/アンティークのメガネを手に取ってみてください。