この世において退屈でないものには人はすぐ飽きるし、飽きないものはだいたいにおいて退屈なものだ。(「海辺のカフカ」村上春樹著)
部員の鈴木すずです。12月中旬、昨年の丁度同じ時期、僕は「沖縄100kウルトラマラソン 」という100kmのロードランニングレースに出ていた。何かの復讐のようにクソ暑い中、まるで阿呆みたいな顔をして。あの時の僕はピュア独身※だったと言うと今はそうではないような言い方だが、今も何ら変わらず独り身。毎日走ったり酒を呑んだり、屁をこいたりして過ごしている。芋粥が食べたい。
そんな僕が先日、「The North Face 100 Hong Kong」というレースに出てきたので、そのレポートをここに記したいと思う。駄文長文ではあるが、最後までお付き合い頂ければ幸甚の至りである。
さて、まずはレースの概要を。
http://www.thenorthface100.com/race/en/index.php
累積標高はd+5,700mほど。コースはシングルトレイル、ロード、林道、やぶ漕ぎとバリエーションに富んでいる。日本のトレイルと異なるのは、登りのほとんどが階段であるということ。しかしCP1以降でストックの使用が許されているので、いかにこれを上手く利用して序盤の階段で脚を終わらせないかが完走の鍵となってくる(ストックになど頼らない強いランナーもいるが、少なくても僕はこれに随分と助けられた)。また、CP4でドロップバッグを預けられるが、国内のレースと異なりこれはゴール後に戻ってはこないので、注意しておく必要がある。
とまあなかなか手強そうなレースではあるが、せっかく訪れた香港。前日昼前に現地に着くや否や、まずは空港で飲茶で一杯やった。美味い! が意外と高い(飲茶で700円くらい)。
現地で別行動を組んでいたライターのエマさんと一旦別れた後、フイナム ランニング クラブ♡(以下フイナム)の新星タッシーと共に街のTHE NORTH FACEショップで受付を済ませ、ホテルでチェックインしてひと息ついた後、夕飯ついでに街を散策する。
このままの勢いで宴会を始めたくなる気持ちをぐっと堪え、早々に宿に帰って明日に備えた。
さて、レース当日は5時に起床しシャワーを浴びて(朝シャン系男子)からフイナムが仲良くさせて頂いている香港のランニングチーム「SD runners(以下SD)」の同士と供に車で会場へと向かった(後にも触れるが今回の旅、SDにはお世話になりっぱなしであった)。30分ほどでスタート&フィニッシュ地点である大美督に到着。登りゆく太陽が美しく、まるでこれからの長い旅路を明るく照らしているかのようで印象的だった。
しばらくロードを走ると間もなくトレイルへ。標高は高くないものの、眼前に海を見下ろす美しい景色が見える。
水のみ補給出来るCP1を経、トレイルを抜けて田舎道を走っていると間も無くCP2に到着。気温はどんどんあがっている。水を浴びたかったが掛水はどのエイドにも無かった。その文化自体が香港にはないのだろうか。
CP2からCP3への道では放飼にされた牛を発見。対岸の景色を余所見しながら走っていたから、目の前に巨大な黒牛を発見した時は実にびっくりした。なんなら割と大きな声で「うわっ! びっくりした!」と叫んだが、周りは香港人しかいないので誰もリアクションをしてくれなくて一人で少し笑った。
CP3から山を一つ超えるとドロップバッグを受けとれるCP4(36km地点くらい)に到着する。ここで応援に来てくれたSDのルイスと久々の再会した。ちょっと暑さにやられていたが、やはり仲間の応援は疲れた身体に元気を与えてくれる。手厚いサポートを受け、ドロップバッグからジェルとブラックサンダー、羊羹を足し、歯を磨いてリフレッシュしてからCP5に向かった。
CP5に向かう途中の山は割と藪漕ぎ系。しかもこの区間は急登&急下りでなかなかスピードに乗れない。
街に降りて暫くロードを走っているとCP5(45km地点)はもうすぐそこ。
ドミが用意してくれていたビールをコップ3杯頂き(美味過ぎて白目)、ドリンクを補充してからいよいよ後半であるCP6に向かう。このレースの特徴としては、まず後半に高い山が多いこと。しかもほとんどの登りが階段なので自分の歩幅で登ることが難しく、少しずつ、だが確実に脚を削られていく。上を見ると絶望するので、とにかく心を殺して一歩一歩、右左、右左と脚を動かしていくしかない。
CP6に向かう途中ですっかり日も落ち、ナイトランに突入。ヘッドランプを装着し、前方3mだけを見ながら脚を運んでいく。けどナイトトレイル、嫌いじゃあないんだよな。また山から見える美しい夜景にも心を洗わされた。そう、この景色が見たくてわざわざ飛行機に乗って香港までやって来たのだ。
タイモーシャンからの下りはしばらくロード。ここでちょっと後方を走っていたタッシーがいきなり側道の溝に落ちるハプニングが! 「何やってんすか⁉︎」と聞くとあまりの眠さに走りながら意識が落ちたとのこと。危ない……。崖とかじゃあなくて良かった……。ここからは並んでお喋りをしながら進むことにする。
CP9(約88km地点)を無事に通過し、最後に山を4つ超えればあとはもうWINNING RUN、下るだけだと安堵したものの、高低図では95km以降は下りしかないように見えるが、実はここに細かいギザギザが8つほどあるので注意が肝要だ。かく言う僕はもう登りはないと思っていただけに、これあと何回あるんだよ!とメンタルをやられちょっとタッシーにも八ツ当りをした。
そしてようやく全てのギザギザをやっつけ、激下りの階段と走れるトレイルを抜けると間もなくラスト1kmを示す看板が。
ここからロード走って終りかと思いきや、残り500mほどでまたちょっとしたトレイルを登らされる。どんだけだよ。しかしながらゴールはもうすぐそこ、のはず。今か今かと歩を進めていると突如ゲートが現われた。そしてようやく、
フィニッシュ!!
103.41km、実に24時間50分50秒の旅を終えたのだった。
レース後、シャワーを浴びて着替えを済まし、宿に着いたのが昼前くらい。SDがセッティングしてくれた打ち上げまで睡眠を取り(レース後あるあるの意外と眠れなかった)、尖沙咀の酒場でBlue Girl(香港のビール)を浴びながらランニング談義に花を咲かせた。
さて、今回が自身3回目となる100km超レースであり、今年20本走ったレースの締めとなった訳だが、未だに長距離レースの何がそんなに楽しいのかと言われると、自分でもよく分からないのが本音であったりする。走っている時の後半は大体「あー、早く終わらないかな」とか「ロードの登りは暇だなー」とか考えているし、フィニッシュした後は「ああ、今日はもうこれ以上走らなくても良いんだ」と思う。毎回その繰り返しである。
それでもなお、僕は30歳から道路を走り始め(現在42歳)、そのおかげでこれまでたくさんの興味深いランナーと出会うことが出来た。フイナムのメンバーや今回共に旅をしてくれたエマさん(写真左)はもちろん、香港で終始サポートをしてくれたSDのメンバーも然りである。
走ることは原始時代から人間がしてきた行為であり、生まれた赤ん坊も3年もすれば走り始める。なるほど今の時代にして最も非効率でアナログな営為の一つかも知れない。であるからこそ、なんでも効率が求められる今の時代に、そのような中で大事な過程を見落としがちな今の時代に、走ることほど己の血肉となり、身体に対流し、自分の限界と対峙させてくれる術を僕は他に知らない。そしてそれによって人の優しさ、温かさにも触れることが出来る。チームを越えて、文化を超えて、制度も国境も越えて。
だからランニングは素晴らしいのである。
※一度も結婚歴がない独身の意。
追記:レース翌日はエマさん提案のもと、香港島の玉桂山へハイクに。想像していたのとはちょっと違ったけれど(意外と急登♡)これも楽しかったなあ。