編集部の村松がお届けするファッションウィークの模様は4日目、今日から後半戦です。
この日は朝から快晴。昨日の雪はほぼ溶けて無くなり、やっと体もこの厳しい寒さに慣れてきました。
下の写真はオリンピックの装飾で彩られた「パリ市庁舎」です。この街は100年ぶりとなるビッグイベントの開催を半年後に控えていますが、そのムードはまだまだ薄く、道を歩いていても関連するものはほぼ目に入ってきません。
歴史ある建物を横目に向かったのは〈ジュンヤ ワタナベ マン(JUNYA WATANABE MAN)〉のショーです。会場はいまは使われていない雑居ビルのワンフロア。コンクリートが剥き出しになった、だだっ広い伽藍堂のスペースです。
今回のコレクションのテーマは「reconstructed suiting」。男性のワードローブに欠かせないスーツにフォーカスした内容です。
数多く登場した美しいフォルムのテーラードジャケットはよく見るとパンツと一体になったようなつくり。どういうことかというと、ジャケットの裾にパンツを模したパーツを組み合わせたトロンプルイユのデザインで、実はコートとして仕立てられています。
モデルには若者から成熟した大人まで、キャラクターの異なるひとたちを起用。男性歌手の語りかけるような歌声の曲が会場に響くなか、全員まっすぐ前を見て歩くモデルたちの凛々しい姿が印象的で、そこにはデザイナーの「すべての世代の素敵な男たちにこのスーツを着てほしい」という願いが込められています。
アプローチは全く異なりますが、テーラードの再考という部分で〈コム デ ギャルソン・オム プリュス〉のクリエーションに近いような印象も受けました。
ウィメンズの〈ジュンヤ ワタナベ〉とコラボするという斬新な手法を取った前回の2024年春夏シーズンはインパクトが強く話題になりましたが、今回はまた違ったアプローチでファッションの奥深さや醍醐味を伝える内容だったと思います。
今コレクションには、お馴染みの〈ブルックス ブラザーズ〉や〈カーハート〉〈リーバイス〉〈ニューバランス〉〈パレス スケートボード〉に加えて、ドイツの老舗シューメーカー〈ハインリッヒ ディンケラッカー〉などとコラボした品々も用意されています。
続いて、取り上げるのは、この日の夕方に行われた〈コム デ ギャルソン・オム プリュス(COMME des GARÇONS HOMME PLUS)〉のショーです。
会場は〈ジュンヤ ワタナベ マン〉と同じスペースだったのですが、こちらはすべての窓を黒布で覆い、自然光が一切入らない締め切った空間のなかで行われました。
ショーの冒頭を飾ったのは、全身白の服に身を包んだモデルたちです。白髪のカツラを被ったその姿は異世界から現れた使徒のようでもあり、見るものに何かを訴えかけるスタイルの強さを備えています。
その後、黒やネイビー、グレーの服も交えつつ、ショーは進んでいきますが、白をキーカラーに据えていることは明らか。今回は非常に少ない色数でコレクション全体をまとめています。
このブランドの基本となるテーラードジャケットは一見どれもウエストが細く、タイトなつくりのように見えますが、ストレッチ素材を使ったり、切り込みを入れたり、ボタンとジッパーをつけて身幅が調整できるようにしていたりと、実は窮屈さを感じさせないつくりになっています。
そして、ジャケットに細かく縫い付けられたボタンも特徴的なデザインのひとつ。これが照明に当たるときらきら光り、服の表情を際立たせます。
今シーズンのテーマは「スピリチュアルワールド」。
さまざまな解釈ができますが、このコレクションはあらゆる物事が不確実ないまの世界に対し、40スタイルの服を通して、何か静かに祈りを捧げる内容のように感じます。
ショーの舞台に左岸の学校を選んだのは〈ポール・スミス(Paul Smith)〉。
このブランドが創業当時から大切にするテーラリングに改めてフォーカスした内容です。そこにワーク風のジャケットやカジュアルな雰囲気のニットなどを挟みながら、シックな大人のスタイルを提案していました。
随所に登場する、ボザール様式の装飾的な壁紙からヒントを得たという「フォトグラム」プリントが特徴のひとつ。コートやベスト、シャツなどに用いられているのですが、どれも美しくコレクションをより印象的なものにしていました。
気を衒わないシンプルな着こなしも〈ポール・スミス〉の魅力のひとつです。
そして、この日はヴァンドーム広場の一角で行われていた合同展示会「MAN/WOMAN」にも足を運びました。〈ニードルズ(NEEDLES)〉〈エンジニアド ガーメンツ(ENGINEERED GARMENTS)〉〈サウス2 ウエスト8(SOUTH2 WEST8)〉〈エーアイイー(aïe)〉など全ブランドを揃えた「ネペンテス(NEPENTHES)」のブースをチェックするためです。
「ネペンテス」のブースは複数の部屋に服やアクセサリーをびっしりと置き、ほぼすべての商品サンプルが見られる状態に整えていました。その一角には「ネペンテス」代表の清水慶三さんとスタイリストの服部昌孝さんがタッグを組んだ新ブランド〈紫電〉の品々も。
清水さんや〈エンジニアド ガーメンツ〉の鈴木大器さんも会場にいて、我々も挨拶をさせてもらいました。
この後に向かったマレ地区では、〈OAMC〉と〈ゴールドウィン〉が仕掛けるコレクションの発表がありました。このブログで商品画像をアップすることはできないのですが、両者のこだわりが非常にいい形で結実したものになっています。意外性もあり、話題になるはずです。
この日は最後に〈アミリ(AMIRI)〉のRE-SEEに足を運んで終了。どの会場でもつくり手の思いをしっかり感じながら、さまざまなファッションに触れた、非常に濃密な一日でした。
特に〈コム デ ギャルソン・オム プリュス〉と〈ジュンヤ ワタナベ マン〉のショーを見て感じたのは、ファッションを言葉で伝えることの難しさ。服の好き嫌いを言うのは簡単ですが、そのブランドのクリエーションの底流にあるものを感じ取り、自分なりに見極め、言語化し、メディアを通して伝えるというのはやはり簡単なことではないなと。
「コム デ ギャルソン」のショーを見るたびに、編集者のひとりとして試されているように感じます。