六本木にあるShugoArtsギャラリーにてアーティスト高畠依子の作品展「MARS」が開催されている。誰でも子供の頃に磁石で遊んだという経験はあると思う。砂の中に入れると鉄分を含んだ砂鉄が磁石に吸い付きまるで鍾乳洞のつららのようになる現象に驚きながら遊んだものだ。思えば人間も含むこの世に存在する全ては引力で地表に留められているわけでこうした目に見えぬ力によって毎日を過ごしているのである。実態のない想像的な表現とはいえアートも作品となると物理的に存在するものであが物理的な存在と目に見えない作品表現への意志というものが同時に進行して制作される、そんな驚きを与えてくれるのが高畠依子の作品である。物理的で科学的な試行錯誤で目に見えぬ表現を具現化しアート作品として表現するその手法は実に興味深い。今までも水や火といった物理的な要因を表現手段として様々な作品を制作してきたが今回は磁石を使って細い線状の絵の具を操り美しい線の重なりのパターンを作り上げている。絵の具はマルスブラックといい酸化鉄からなる黒色顔料で鉄分の含有量が多いので磁石の磁力に敏感に反応して線のパターンや砂鉄で見たような小さなつららのような盛り上がりも作り出す。物質の物理的な作用と表現の美的な作用が見事に出会い見たこともないような絵画作品を生み出したのである。