国立近代美術館で10月11日までピーター・ドイグ展が開催されている。スコットランド生まれの作家はカナダやカリブ海の島トリニダード・トバゴなどで過ごした経験がある。1994年に「ターナー賞」にノミネートされて以来世界中の美術館で展覧会が開催されてきた具象絵画において現代最も重要な作家である。彼は伝統的な絵画というものがもう生まれないと言われていた中に出現した極めて注目すべき存在だ。1990年代の西洋絵画の世界はニューヨークを中心に広がったジュリアン・シュナーベルやデヴィッド・サーレなどのいわゆるネオ・エクスプレッショニズムの流れに圧倒されていた。ドイグも最初この流れに乗っていたそうだがカナダへの移住がきっかけで心境の変化か価値観の変化を感じ方向性が変わっていった。彼の絵画は緻密であると同時に自由でグラフィカルに大胆、現代的なのに伝統的な技法による油彩絵画が表現しうる重厚な魅力を併せ持っている。また、ドイグの絵は西洋絵画の油彩というテクニックが持つ技術的な表現力の可能性の全てを兼ね備えていると言っても過言ではないと思う。そして、そこに未完成を完成と同じ画面に混在させるというピカソがゲルニカで見せつけた現代的表現が何の違和感なく共存していて実に魅力的かつ個性的な作品として成立させているのだ。また、作品のテーマや構図、モチーフなどを大好きな映画から引用していたりと現代的な側面を持つ他、描かれる様々な世界は極寒のカナダや南の楽園のトリニダード・トバゴで過ごした日々の影響にも溢れている。絵の構図や描き方には過去の様々な西洋絵画のマスターたちの面影が見て取れるのも特徴的で僕がドイグの絵を見る時にどこかにアンリ・ルソー、ピカソ、マチス、セザンヌ、ロートレック、モネ、マネ、ゴッホ、ゴーギャン、ジェームズ・アンソール、ムンク、エゴン・シーレなど沢山の巨匠達の作品を連想させられるのだ。筆が立つという言葉があるがドイグこそその表現がぴったりの技量のある作家だしインスピレーションの源の面白さ、一つ一つの作品の描き込みの凄さ、鮮やかな色彩の美しさ、構図の大胆さなど、どこを取っても素晴らしいの一言に尽きる作家なのである。この展覧会は今年一番の展覧会だと確信するしコロナで沈んだ気分を一掃してくれるような見事な力のあるアートの展覧会である。

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