地元紙『十勝毎日新聞』(以下、勝毎)で執筆を続けて1年半が経った。関東で活動している十勝出身者や、出身ではないが現在十勝にゆかりがある方を中心に話を伺い、月に1度、1200文字ほどで紹介している。出身者には十勝で過ごした思い出なども聞き原稿に盛り込むので、話を聞くたびに十勝ならではの地域性が浮き彫りにもなり(これはまた別の機会に)、毎回本当に楽しく取材を続けさせてもらっている。
新聞ゆえ文字数をこれ以上増やすことはできず、“報道”という特性上、客観的に執筆するので主観はほとんど排除している。誤解を招くかもしれないので説明するが、これらに文句を言いたい訳ではない。コンパクトな分量で、そして十勝に住む読者の誰が読んでもわかりやすいように書くことがこの記事では求められているのだ。
20人以上にインタビューを重ねる中で、文字数が足りなくて枠には収まらない面白いエピソードだったり、裏話的なものだったり、はたまた個人的な気づきがあったりで、そういうものを補足的にどこかで公開できないかとずっと考えていた。さらに、最近は東京支社長も取材に同行くださっているのだが、書ききれないエピソードを勝毎のウェブで公開するのもありかもね、なんて話にもなり、だったらこのブログで取材後記のようにざっくばらんに書いてみてもいいんじゃないかとふと思いついた次第である。
なんとも長い前置き…ということで、実験的に「勝毎取材後記」と題して書いてみます。ご興味お持ちくださった方は(ありがとうございます)、以下まだまだ続きますがお読みください~
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取材対象者:中谷浩平さん
出身:帯広市(帯広柏葉高校卒)
職業:レコーディング・エンジニア
紙面掲載:20/10/20(火)
取材日時:20/10/3(土)16:00~18:00
場所:中谷さんのスタジオ
取材のきっかけ:三拍子の高倉陵さんからご紹介(柏葉の同級生)
備考:インタビューと撮影は代理で支社長が担当
最初に高倉さんから中谷さんについて聞いたときにまず思ったのは、音響エンジニアってどんな仕事?ということだった。仕事内容がまったく想像できなかった。ということで、まず中谷さんに伺ったのは、音響エンジニアという仕事についてだ。
説明の中で印象に残ったのは、「マイクを選ぶ」という言葉。例えば楽器に対してや声によっても合うマイクが違うらしい。メーカーによって性能が異なるため、選ぶところから始まるとのこと。
持論として中谷さんはこう話していた。「僕らの仕事が売上に直結するとは思っていないけど、言葉にできないなんとなくの心地よさを感じるのは、僕らのような人たちのこだわりが作用しているのかなと信じています」。
目に見えない領域の地道で緻密な丁寧な仕事。私たちが耳にするあらゆる音楽の背景に必ず存在するのが音響エンジニアなのだ。表舞台には出ないけど、支えてくれる存在がいなければできないものがある。それはどの業界にも言えること。そして、ただ技術があるだけではダメだという。アーティストと一番距離が近い存在だから、コミュニケーションを大事にして信頼関係を築くことが重要なのだと。
仕事は基本的に全部指名制。アシスタントからキャリアを始めて、どのように評価されていくのか。「例えば演奏していて、ミスしたなと思いながら最後までやったときに、一箇所ミスしたんだけどどこかわからないんだよね、と言われることがある。そのときに、たぶんここだと思うから聴いてみますね、と進行したりする。そういうことの積み重ねで信頼を得て、じゃあミックスまでお願いしてみようかとなっていくんです」。アシスタント時代を含めて手がけたアーティストを伺うと、日本で名のあるアーティストのほとんどで驚いた。地元が同じというだけで、なんだか誇らしい気持ちにもなった。
もう15年ほどの付き合いになるTRIPLANEをもっと売れるようにしたい、とも話していた。私は学生の頃にFM JAGA(注:帯広市のコミュニティFM局)でTRIPLANEを知って、『スピードスター』をその頃何度も聴いていた。きっとその曲も中谷さんが携わっていたんだ、と思うと感慨深い。ちなみに、TRIPLANEの毎週土曜配信のYouTubeは中谷さんのスタジオで撮っている。コロナ禍でZOOMを使うようになり、ZOOMの映像ですらかっこよくしたいと思うようになったという。
最近は自分でカメラを持ってレコーディングのメイキング撮影もする。「カメラマンが入ると構えちゃうこともあるけど、僕らはアーティストと仲が良いから自然な感じで撮れるんですよね。その感じがいいなと思って。勝手に撮って編集して、何かに使ってくださいと渡しているんです」。
最後に、今回一番心を掴まれたこと。中谷さんがこの仕事を目指すきっかけが、同級生の存在だったこと。「両親も兄も公務員。中高とバンド活動をしていたけど、音楽の道に進むなんて無理だと思っていた」と当時を振り返り、卒業後は大学へ進学。「でも途中で音楽の仕事をしたいって思うようになって。卒業してもみんなずっと仲が良くて、芳郎(逢坂さん)や健三(山田さん)や陵(高倉さん、当時爆笑オンエアバトルに出ていた)が頑張っているのを常に耳にしていて。なんであいつらは頑張っているのに僕は頑張る前から諦めているんだろうと。みんなの姿をみて刺激を受けたんですよね」。
中谷さんに同級生の存在がなければ、きっと今の中谷さんはない。私もそうだが、特に学生時代の仲間の存在は本当に大きい。何事もやる前から諦めていたら始まらない。まずはダメかもしれないけど、やってみる。その一歩が大切なのだと実感した。
同級生たちとの仲の良さは変わらず、仕事まで一緒にするようになったというのもうらやましい。前出の逢坂さんは映画監督、山田さんはグラフィックデザイナー、高倉さんは芸人としてそれぞれ活躍しており、最近このメンバーでCMの制作もした(注:どさんこワイドのCM枠で流れている江戸屋さんのCMです。道民の方はぜひご覧ください)。
ちなみに、遊びの延長でつくったという結婚式のためのムービーがある。プロの機材にプロの仕事(映像は逢坂さん、音はもちろん中谷さん)だからクオリティが尋常でない。しかも147万回も再生されている!メイキングも必見。めちゃくちゃ感動するので動画貼っておきます。(大変な余談で恐縮ですが、私も名前が“かおり”なのでこれを初めて観たときに思わず涙があふれました)