BLOG - 蔡 俊行(フイナム発行人)

匙加減

 カレー店に入ったら、隣に老紳士がいた。見た目はマッドサイエンティストというか、どこかの研究一筋の大学教授のような風貌だ。

 サーブされたお皿を見て店員さんに「これはサジがないと食えない。サジをくれ、サジを」といっている。

 店員さんは日本語は堪能なものの、外国出身者のようだ。たぶん「サジ」の意味がわからない。

 困っているその店員さんに小声で「スプーンだよ」といってあげてもすぐには理解できないようで、他の店員さんに聞いてやっとわかったみたいだ。

 この頃、匙(さじ)なんて言葉を聞くことは滅多にない。老紳士からすると当たり前の日本語であるが、もはやそれは通じない時代になってしまった。

 ただ消えていく言葉と、なにかしらの圧力によって言い換えられる、あるいは換えられた言葉。

 先日、日本糖尿病協会が糖尿病という病名を変更する方針であるという発表があった。「尿」という文字が不潔なイメージで捉えられるというのが理由のひとつらしい。

 文章を書く仕事をしていると、こういうのに敏感にならざるを得ない。校正さんがいる仕事だと問題点を指摘してくれるけど、我々がやっているWEBメディアなんて、スピード勝負な面もあるので、そこまで文言チェックできない。

 ケガの多い自分であるが、普段からそんな言葉遣いをしないように、「足をひきづってあるく」なんて言い回しをしている。

 しかし言い換えるとまったくピンとこない例が多い。しかも禁忌な言葉もあるがグレーゾーンな言葉もあり、なかなか匙加減が難しいのである。

 

 

 

 

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