BLOG - 蔡 俊行(フイナム発行人)

合成の誤謬

 ずいぶん前、スポーツマンガなどに実名選手や実名球団名を出すのはどうかという議論があった。肖像権などの権利問題がその背景にある。時代が下るにつれてそういう権利はますます強くなっているが、これはその始まりのひとつ。

 そしてその槍玉に挙げられたのが、野球マンガでお馴染みの水島新司先生であった。彼の作品には実在の選手名、監督名、球団名、果てはオーナーまでが登場するオールスタードラマ。この度の死去にともなう選手コメントの中には、作品に取り上げられて感動したとか、嬉しかったというのもある。騒動当時も名前を使用された彼らからは一切批判などはなく、周りに群がる金も亡者どもだけが大騒ぎしていたという印象だ。

 小学生の頃から先生のマンガを何度も読み返しているこちらとしては、そんな騒動を巻き起こしている連中はバカじゃないのかと呆れていた。先生のマンガがあったからこそプロ野球界や高校野球はより面白くなり、経済圏が拡がったのにその功績を讃えるどころか、卑しめる行為にでるとはどうかしている。感謝こそすれ、誹謗される筋合いはない。

 この度の訃報で真っ先に思い出したのがこのことだった。

 そして次に思い出したのが「へい!ジャンボ」という作品。70年代に少年キングに連載されたものだ。野球マンガばかりという先生の初めての(そして最後の?)サッカーマンガ。ジャンボというだけあってアンドレザジャイアントばりに大きな選手が、ヘッドリフティングだけで歩いて相手ゴールに迫り得点するというアイデアに、そらないだろと子供ながらに突っ込んだものだ。

 連載は長く続かなかったものの、当時超マイナーだったサッカーを取り上げてくれて、この競技に夢中だったぼくを勇気づけてくれた。サッカーやってたヤツはともかく、日本中の野球少年で先生のマンガ読んだことがないやつはいないと思う。

 時代が良かったといえば、それきりになるが、もうこんな大きな影響力を与えるマンガ作家は出てこないかもしれない。

 プロ野球界は「殿堂」とか「栄誉賞」とかよくわからんが、ありったけの感謝を送ったほうがいい。というかもう準備していると思うが。

 

 

 

 

 

 

 

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