僕の故郷、長野県上田市にオープン予定のショップ『EDISTORIAL STORE』を語るつもりでスタートした当ブログですが、僕のことをご存知ない読者のための自己紹介程度で書き始めた「わたしも履歴書」。気がつけば独り歩きして随分と語ってしまいました。ほぼ語り尽くしたという実感もあり、その間にフイナム本体でショップの成り立ちを取材してもらったり、業界紙に取り上げてもらったりして、少しづつその全貌が明らかになろうとしています。
そこで近過去と言いますか、今回お店を始めるための大きなきっかけとなった僕のブランド、『EDISTORIAL』について語りたいと思います。ご存知の通り、スタイリストとして様々な洋服に触れ、またMADE IN WORLDという店を立ち上げ、Numero UnoやCoffee and Milkといったブランドを手掛けてきた自分にとって、常に「ファッションって、洋服って何だろう?」というある種根源的な問題を考え続けてきました。あらゆるテイストもあらゆるアイテムもスタイルもすべて内包する、全く不正解のない懐の深い、得体の知れないものがファッションであることは分かります。でも、だとしたら、すべてが正解ならファッション雑誌も店員さんのオススメも必要ないワケで、どこかに自分なりの答えというか規範というか、そういったものがないと、そもそも我々スタイリストという職業も不必要になってしまいます。
そこで僕なりの正解を表現したいと強く考えて2016年に作ったブランドが『OZAWAHIROSHI EDISTORIAL』です。ブランド名は「editorial(編集)」と「story(物語)」を合わせた造語で、僕にとっての理想のスタイリスト像に欠かせない二つの要素を一つの言葉にしました。・・と言いますか、この言葉をプロのコピーライター(アメリカ人)に作ってもらいました。あれほどいろんな店や会社やブランドの名前を考え続けてきた自分でしたが、この発想はプロだからこそ、それもネイティブスピーカーならではと今でも感心してしまいます。仕事を発注して本当に良かったし、とにかく気に入っています。
では、僕なりの正解ってナニ?ってことになるんですが、一つはとてもパーソナルであること。もう一つはノーリミットなこと。それだけを真っ直ぐに見つめて作ったブランドです。その1、パーソナルであること。これは言い換えるとマーケティングしないことです。「今、どんな服が人気なの?」「このアイテムいくらくらいなら売れそう?」「色は?形は?」といった事柄をすべて遮断して「自分の服のルーツってなんだっけ?」「どんな服に心が踊らされ、どんなモノを着続けてきたっけ?」と、自分の心の奥底にダイブして芯を見つけ出す作業をやり続けました。
その2、ノーリミット。これは作りや素材、売り方に至るまで妥協しないでオリジナルの方法を追求したことです。カシミア100%のメルトン素材を開発してコートを作る。昭和初期の絣の生地を見つけて色を組み替えて織り直してもらう。展示会はなんで半年に一回やる必要があるのか、というビジネス形式にも踏み入って、敢えて年に一回に。毎年同じアイテムを売りながら色を追加していくなど、セールスの手法もノーリミットでの運営でした。更にジャケットやコートなどの重衣料にはポーターと開発したガーメントバッグを付けたり、クローゼットに掛けるフレグランスを作ったり(もちろん香りもオリジナル)と、正にノーリミットなブランドでした。価格もそう。コート60万円、タキシード54万円、ブルゾン27万円と、今のラグジュアリーブランドを凌駕するプライスレンジ。これまたノーリミットですよね。
全8アイテムのコレクションに加え、スタイリング用の非売品として、「……RESEARCH」の小林節正さんにシューズのリメイクをお願いしました。上の写真の足元をよく見てください。英国ブランド、グレンソンのウイングチップにバイク用のシューズプロテクターを着け、更にそのパーツとソールを白くペイントするという、超絶弩級の靴を作ってくれました。この他にもそれに勝るとも劣らないラインナップの靴がスタイリングの足元で輝いています。
また上の写真のシャツも一見、ドレスシャツにスカーフを巻いているように見えますがさにあらず。ヴィンテージのシャルべのシャツにこれまたヴィンテージのエルメスのスカーフを合体させたワンオフのアイテムなんです。バリエーション違いで下の写真のモノも作りました。その買い付けのためにパリに飛んだり・・・とノーリミットを越えてただの酔狂なアホでしたね。
ここまで読んでくれた読者の方はもうお気づきでしょう。「どんだけお金掛けてるの?」って。僕もそう思いますもん。でもその時はやりたいことをどうしても形にしたかった。もしかしたらこういうやり方や考え方に興味を持ってくれてこのブランドも軌道に乗るかも・・・でも、全ては自己中心的な甘い考えでした。ブランドは2年と持たず終了。僕は大きな挫折と空っぽの銀行通帳だけを手に入れることになってしまいました。
いや、厳密に言うとEDISTORIALの素晴らしい洋服(一部は売ってしまったが)と、挫折を糧にした新たな経験は残りました。これらの洋服は上田のEDISTORIAL STOREに展示されます。その時はぜひ見に来てください。
なんて宣伝もしちゃいました。これにて『わたしも履歴書』のシリーズは終了、来年からのブログは、いよいよ未来の話へと続いていきます。どんな店になるのか、どんな服が置かれるのか、このブログで皆さんにご紹介してゆきます。長い文章にお付き合いいただき、本当にありがとうございました。