今年の夏、ジム・ジャームッシュ監督のレトロスペクティブがあり、結構観ました。最近だと「パターソン」が良かったけど、往年のファンにとってはやはり「ストレンジャー・ザン・パラダイス」は外せない名作ですよね。中でも物凄く雰囲気出してたのが主役のジョン・ルーリー。でも彼は根からの役者ではなくミュージシャンだって知ってますか。サックスプレイヤーでラウンジリザーズというジャズバンドを率いていました。
映画が日本で公開されたのが1986年、僕が御供さんのアシスタントになった年ですがとにかく大ヒットして、それと共にNYのニューウェーブシーンで騒がれはじめたラウンジリザーズも注目されたんです。前にTOOLSは御供さん、近藤さん、スコットさんの3人によるクリエイティブオフィスだって書いたんですが、そのうちの一人スコットさんのネットワークがすごくて、そのコネクションでジョン・ルーリーと彼のバンドであるラウンジリザーズの来日ライブをやっちゃおうという話になってました。僕はただのアシスタントだし、なんでそんなトンデモないことを自分たちで手がけることになったのかの経緯はよく分からないのですが、とにかくやるからには手伝うことになるわけで、それも会場が築地本願寺の境内というこれまたトンデモない場所での開催でした。
あまりに浮世離れした場所(そりゃそうですよね、お寺だし)で、あまりに現実離れした企画、オマケに僕はアシスタントになりたてという環境で当時のことはほとんど記憶がないんですけど、入場料の両替しに近所のパチンコ屋に走ったのだけは覚えています。この前先輩のフォトグラファーHさんと話をした時も同じこと言ってたから間違いないですね。あと、前座がいとうせいこう&ザ タイニーパンクスだったのも思い出しました。
スコットさんのネットワークと言えばやはりキース・ヘリングのことを書かないわけにはいきません。言わずもがなポップアート界のスーパースターですが、スコットさんは彼とも親交がありました。ちょっと調べてみたところ、キース・ヘリングは1983年に初来日して今のワタリウムの向かいにあったショップ、オンサンデーズに壁画を描いています。2018年に保存のために移築されましたが、それまでは毎日彼の作品を観ることができたのです。世界各地を彼のアートで埋め尽くすべくワールドツアーの中で、度々日本にも訪れていました。僕がアシスタントとして夜な夜な通っていたTOOLS BARにも遊びに来ていましたね。すごくフランクで何と言っても彼のアートは一瞬で描けるモノなので(もちろんあそこに達するまでのオリジナリティはリスペクトした上で)スタッフやお客さんたちにも気軽にサインしてくれました。お店の扉にも例の軽妙なタッチでアートワークを施してくれて、ドアを見る度に誇らしく思ったものです。それにしてもあの時描いてもらったTシャツは一体どこに行っちゃったんだろ?本当の意味でのお宝になったはずなのに。
とは言え、僕は別のお宝を持っています。キース・へリングが度々来日していた目的のひとつは彼のショップ『POP SHOP』を作るためでした。NYに次ぐ世界で2番目の店舗は1988年に表参道にオープンしました。そこで僕が買ったこのお茶碗。僕は彼自身が絵付けしたものだと信じています、高台にもサインが入っているし。他にも買い物してすごく鮮やかなショッパーに入れてもらって大喜びしたのを覚えています。今、手元にあるのはこの茶碗だけだけど残るべきモノが残ったなぁと、しみじみ思います。
さあ、他にもスーパースターたちに巡り合う機会がやってくるのですが、そのお話は次回にさせていただきます。