セレクトショップ業界での下町人情派の代表格が元SHIPSの中澤さんなら、山の手人情派の代表的な先輩がBEAMSの窪浩志さんです。高校生の頃から夏休みに上京しては買い物ツアーをしていた僕にとって当時のBEAMSはかなり敷居の高いお店でした。A立さんを筆頭にショップスタッフは緊張の対象ばかり。でも、僕の2コ上の窪さんは大学生からバイトで店頭にいたので、なんとなく覚えていてくれて、アシスタントになってからもすごく良くしてくれました。
窪さんは「インターナショナルギャラリー ビームス(以下ギャラリーと表記)」のスタッフからいつの間にか「ビームス ボーイ」を立ち上げ、その数年後メンズ部門のディレクターとなってまた顔を合わせるようになります。パリやミラノのメンズコレクションでもいっしょになることが多くなってショーの合間にカフェでお茶したり、移動のバスに同乗したりとかしてよく話をするようになりました。そんな2007年(※ちゃんと調べてないので間違ってたらゴメンなさい)、ギャラリーを改装して増床オープンすることになり、窪さんが総指揮をとっていました。出来上がった空間はまさにGalleryと呼ぶにふさわしい硬質さと緊張感を備え持つ、背筋の通ったお店に生まれ変わりました。
ただ、僕なんかにはちょっとシャープ過ぎるとさえ思えて、まぁそれこそが狙いだったんだろうけれど。でもある日、窪さんに会った時に「緊張感あり過ぎて、もう少しヌケ感があってもいいんじゃないですか。」って言ったんです。そしたら窪さんが「例えばどんなアイディアあるの?」って会話のキャッチボールから生まれたのが、僕と窪さんのブランド『Coffee & Milk』です。コーヒーの黒、ミルクの白、つまりあくまでもモノトーンではあるんだけど、そこにはユーモアとか楽しさがあるような感じ。それが新たなギャラリーのラインナップに加わることであの緊張感を弛緩させることが出来るんじゃないか、そう考えました。
だからあくまでもキャッチーなテイストを心掛けましたね。立ち上がりでもっともエネルギーを使ったのは商品ではなくロゴでした。そこに全てのイメージの根源が集約されていると思ったから。チームは窪さんから紹介されたTシャツ屋の松屋さんとグラフィックの村上さん。二人とも関西の方でこれまで出会ったことのないタイプでしたけど、そのノリが良かったみたいで相当タフなことを笑いながら進めていました。
これがデビューシーズンのカタログ。「垂れロゴ」と呼んでいた手書きのフォントがこのブランドのイメージ付けに大いに役立ちました。ここから発想を広げてアイテム構成していきましたね。基本的なスタイルは僕が生徒で窪さんが先生。窪さんから夏休みの自由研究のお題をもらって、僕がレポートを作ってそれを窪さんに添削してもらう・・・そんな流れでコレクションを作り続けました。窪さんからは「僕らはファッションDJだね!」という金言までいただいて。つまり全く無いところからストイックにモノ作りをするのではなく、DJがサンプリングして新しい音楽を作るような気分でCoffee & Milkというブランドは形成されていったのです。
いろんなモノを作り続けた中で今も僕が大切にしているC&Mのアイテムがこれです。ポーターの人気アイテム「タンカー」の持ち手を外してクラッチバッグにアレンジしたもの。今でこそポーターコラボでこの手のアレンジを見かけることは多くなりましたが、当時ハンドルを取っちゃってクラッチにしちゃう、というアイディアはインラインでもコラボでもどこもやっていませんでした。ついついプラスオンしたモノ作りに行きがちなところを、マイナスにして新しいものを生み出したこのクラッチは自分なりに満足のいくアイテムとして記憶にも残り、もちろん手元にも残って今でも一軍選手として活躍しています。
窪さんとはその後も良好な関係を続けさせてもらっていて、EDISTORIAL STOREの構想についても真っ先に相談しました。ものすごく共感してくれて協力してくれて、BEAMSの参加が決まりました。本当に感謝、感謝です。
さあ、次回は少し時計を逆回転させてミレニアムのお話を。ではお楽しみに。