BLOG - 岡田哲哉(グローブスペックス 代表)

Lesca Lunetierの秘密。

メガネのデザインは国によって特徴があります。特にビンテージのメガネです。

私の印象ではヨーロッパの中でもフランスにはメガネ好きが多く、様々な形や色を楽しむ人を良く見掛けます。若い人たちもメガネをオシャレに掛けていますが、特にオシャレな老眼鏡を掛けた年配の紳士やご婦人がカフェでコーヒーを飲みながら「Le Figaro」を読んでいる様を見ると、「ああ、今パリに居るんだなー」と実感します。フランスに初めて行ったのは30年前ですが、その頃からずっとそう感じるので、オシャレを楽しむスタンダードなアイテムとして定着しているのだと思います。

フランスのビンテージで特に印象的なのはプラスチックを素材(通称:セル枠)に使っているものです。そのセル枠のディテールに独特の良い感じがいろいろあるのです! 現代でもフランス人がとても大事に継承しているデザインの秘密をご紹介します。Lesca Lunetierにはリアルビンテージのラインと、伝統的なスタイルを再構築したラインがありますが、どちらも交えて紹介します

まずブリッジ。左右の枠を繋ぐフレームの中央部分を指しますが、アメリカのビンテージに比べて凝った意匠が施されているものが多いです。もちろん面構えに一番大きく影響するのはフレームの玉型ですが、フランスのビンテージにおけるブリッジの意匠はデザインに対して独特なテイストを与えています。知性、アート性、強い意志、美学など、色んなものが詰まっている感じがします。それが掛ける人の表情になんとも良いニュアンスを作り出してくれます。

ビンテージモデルのブリッジ。

現行モデルのブリッジ。

そして、何といっても玉型のデザイン。基本的に丸っぽい玉型が多いですが、正円に近い形とパントゥという上部のカーブが少しだけフラットになっているタイプでは掛けた時の印象が全然異なります。

正円かそれに近いタイプはクラシックな印象が強く、パントゥタイプはもう少しモダンな印象です。実際に正円のメガネは14世紀くらいからありますが、パントゥ型が生まれたのは20世紀になってからです(1920年代)。

ちなみにパントゥ型を日本ではボストン型といいますが、これは日本語で世界中どこに行っても通じない言葉です。アメリカではP-3と呼ばれています。パントゥタイプで上部のリム(縁)が王冠のようにクラウン型になっているのがクラウンパントゥです。映画監督スパイク・リーが良く掛けていますね。1920年代くらいからある玉型ですが、日本ではグローブスペックスがLesca Lunetierを取り扱い始めた2012年くらいから人気が高まり、今では多くのブランドがこの玉型を取り入れています。

Vintage Crown Panto

Vintage Round Panto

Atelier S-freud

Mod.PICA

Mod.G.Burt

Mod.P4

また玉型に名称は無いのですが、独特な異形も多く存在します。微妙に吊り上がらせたり、形の一部を切り落としたような玉型は、フランスのトラディショナルなデザインの大きな特徴であり、絶妙な美的センスがあります。何ともいえないアーティスティックな表情を作り出してくれるのです。これだけ表情豊かで多様なデザインはフレンチビンテージならではの魅力です。

現行のアトリエシリーズ。

レスカのビンテージの2本。

ディテールではカシメピン。アメリカのビンテージは飾り鋲といって蝶番を固定するピンを覆って隠しているものが多いですが、フランスのビンテージはその多くにこの小さな丸鋲が付いているのも特徴です。裏側に蝶番金具を固定するためのピンですが、デザインでもアクセントになっています。

3ピンのもの。

2ピンのもの。

テンプルはスッキリとプレーンなデザインも多いですが、一部とても特徴的なタイプもあります。

Lesca Lunetier をデザインするJoel Lesca氏は1964年にブランドを始動しましたが、自分のブランドを「フランスの伝統的なスタイルのリエディット」と呼んでいます。つまりフランスに過去から存在するデザインやディテールを再解釈して現代に伝承する、というデザイン活動です。このデザインを見ていると過去にあったビンテージのサイズやボリュームを変えて、現代的に掛けやすくアレンジしたり、はたまた過去には存在しなかった形を異なるビンテージのデザインと組み合わせたり、様々な手法を使います。それでも全体にちぐはぐさが無く、一本筋が通った印象があるコレクションになっているのは、Joel氏がフランスメガネの美しさ、真髄を知り尽くしているからでしょう。

デザイナーであるJoel Lesca氏。

こうしたJoel氏のフランスメガネの伝承活動は深遠なる知識やセンスに依るところも大きいのですが、過去のデザインを型取った金型を数多く保存しているところも見逃せません。1940年代から70年代くらいまで、枠の形を打ち抜くスタンピングマシーンに取り付けて使用していた金型です。メガネ文化を守って伝承し続ける上でとても貴重な財産です。

金型。

金型が沢山格納されている棚。

以前、このブログでご紹介したゲルノット・リンドナー氏もそうですが、Joel氏共々メガネの美しさの一番大切な要素を熟知している、デザインの語り部といえます。全く見たことがないような近未来的なアイウェアをつくる若いデザイナーたちも魅力的ですが、かつての本質的な美しさを現在のコレクションに生かして伝えてくれるJoel氏のデザインには文化や歴史といった重厚感があり、それがLesca Lunetierに唯一無二の魅力を与えているのです。

 

 

 

 

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