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BLOG - フイナム編集部

ジェームズ・ディーンを描いたサカイと、頭角を現わす日本のブランドたち。

編集部の村松がリポートするパリ・メンズファッションウィークはいよいよ最終日。ここまで連日、曇りや雨でしたが、やっと朝から清々しい天気になりました。昨夜の〈ドリス ヴァン ノッテン〉の余韻が残るなか、まず向かったのは〈サカイ(sacai)〉です。

場所はルーブルにある1870年代に建てられた郵便局の吹き抜けスペース。木の柱を家のかたちに組んだセットをつくり新作を披露しました。

そこに現れたのは、大きめのライダースジャケットをラフに羽織った、あどけなさの残る男性モデル。特徴的な黒縁メガネをかけ、ポケットに手を突っ込んで歩く姿に見惚れていると、そのモチーフがジェームズ・ディーンだということがすぐに分かりました。

後続のモデルのジャケットから覗くのは彼の顔。イメージソースを包み隠さず、白Tにデカデカと持ってくるあたりにこのブランドの面白さが表れています。

そして、異なる要素を掛け合わせ、自由自在に服を操る〈サカイ〉のデザインは今回も健在。その見事なつくりは、〈リーバイス®︎〉〈ダブルタップス〉〈ジェイエムウエストン〉〈ナイキ〉とタッグを組んだ品々にも見て取れます。

ちなみに家のかたちをしたセットは、ジェームズ・ディーンが幼少期に住んでいた家が元ネタなのだとか。

 

次は〈ベッドフォード(BED j.w. FORD)〉で、左岸にある学校の中庭がステージです。到着するとそこには気持ちいい日差しが降り注いでいました。

仕事を終えて家路につくワーカーたちのスタイルからイメージを膨らませたという新作は、縦に流れるようなフォルムが美しく、それらを巧みに組んだスタイリングがコレクションというひとつの物語の輪郭をより明確にしています。

コートの袖をしっかり捲り上げたり、シャツの襟の片っぽがブルゾンから飛び出ていたり、緩くネクタイを結んでいたり。その微妙なニュアンスが積み重なって、最後は観るひとたちの心を打つように感じます。

これを指揮したのはMauricio Nardi。〈ベッドフォード〉のショーでは約3年ぶりとなるスタイリストの起用です。

 

そして、ラストは〈ダブレット(doublet)〉です。このブランドは毎シーズン、エンタメ性あふれるステージで観客を喜ばせるのですが、服づくりにしてもショーの演出にしても、いつもそのマジな感じが伝わってくるから、観ていて気持ちいいんです。もちろんこの日もパンチの効いた内容でした。

テーマはずばり「IDOL」。横断幕で仕切られたランウェーに現れたのは、応援団を思わせるサングラス姿のモデルたち。「オッス!」という男性の野太い声や「イクヨー!」という女性の掛け声を交えたアップテンポなビートに合わせて、“アイドル” や “押し” の言葉に紐づくようなアイテムを繰り出します。

三日月に腰を掛ける美少女キャラをあしらったTシャツ&ジーンズ、身頃にペンライト用のポケットがついたジャケット、うちわ型のショルダーバッグといったアニオタを意識したようなもの、はたまたトレランザックのようなベスト、スタッズで覆われたスニーカー、サッカーユニフォームを思わせるニットまで。パリという世界的な舞台で強烈なインパクトを残したことは間違いないでしょう。

最後に、ファッションウィークで感じたことをまとめます。もう少しお付き合いください。

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オリンピックの開催を1ヵ月後に控えるパリ。そのムードは確実に高まりつつあり、関連するものを街の至るところで目にしました。聞いた話では、近々セキュリティ強化の目的で、開会式を行うセーヌ川沿いのエリアへの立ち入りを制限。入るのにわざわざパスを取る必要があるのだとか。なんと大会期間中、メトロの料金は約2倍になります。

準備が進むオリンピックの直前に行われたファッションウィークは、ストやデモによる混乱もなく終了。セレブやインフルエンサーを囲う世界的なブランドが注目される一方で、話題は今回をもってデザイナーが退任する〈ドリス ヴァン ノッテン〉でした。そのステージはブログでも紹介した通り特別なもので、ただ着飾るだけではないファッションの豊かさや尊さを存分に感じさせる内容でした。

そして、もうひとつ名前を挙げるなら〈アンダーカバー〉です。数年ぶりとなるメンズのショーは、ウィメンズの勢いそのままに、服と演出による世界観のつくり方が非常に巧妙で、みるみる引き込まれました。

今回もファッションウィークには日本のブランドが多く参加。オフィシャルスケジュールに69あるブランドのうち、その2割を占めます。かつて御三家と呼ばれた「コム デ ギャルソン」「ヨウジヤマモト」「イッセイミヤケ」が手掛けるブランドを筆頭に、いまではたくさんの才能が花の都に集まります。

独自性のあるファッションか、手頃な価格のアパレルが生き残り、立ち位置の曖昧なブランドは淘汰される厳しい時代。そんななかでもここに来る日本のブランドはそれぞれの個性を活かし、新たな価値を提案しているように見えます。その力がパリの手厳しい業界人を唸らせるからこそ、ファッションウィークに日本のブランドは欠かせない存在になっているのだな、と気づきました。

パリ10区にある凱旋門「ポルト・サン・ドニ」。今回泊まったホテルはこのすぐ近く。

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