BLOG - フイナム編集部

エルメスが描いた南仏の景色。そしてドリス・ヴァン・ノッテン、最後の舞台へ。

編集部の村松が取材するパリ・メンズファッションウィークはついに山場。5日目は今回のメインイベントともいえる〈ドリス ヴァン ノッテン(DRIES VAN NOTEN)〉の発表を控えます。

まず触れるのは〈エルメス(HERMÈS)〉のショーです。1939年につくられたアールデコ様式の建物「イエナ宮殿」にステージを設け、48体からなるコレクションを発表しました。

新作のモチーフになったのは、水面がきらきらと光る南仏の光景。「Immersion in to the sea」をキーメッセージに、我々をバカンスへと誘うような大人のサマースタイルを描きました。

ファーストルックは鉛筆でデッサンされた馬があしらわれた淡いブルーのトップスに、くるぶし丈のパンツを合わせたスタイル。手に持ったバッグ「オータクロア」と、ウエストから見えるメッシュベルトがアクセントになっています。

ワックス加工の糸でつくられたフラワーエンブロイダリーのジャケットや、歩くと後ろ身頃がなびいて内側の柄がサイドから覗くシャツ、薄手のテクニカル素材を使ったリーバシルブルのコートなど、全体的に柔らかいカラーでまとめてリラックス感のある表情に仕上げています。

身頃の途中で色が変化するカーディガンはオーバーダイのように見えて実はプリント。水に浸かって色が変化するようなイメージでつくられています。これに近いニュアンスで、裾に向かうについてグラフィックがかすれて消えていくシャツやショーツ、ブルゾンも。

気づくとアーティスティック・ディレクターのヴェロニク・ニシャニアンが〈エルメス〉のメンズ部門をリードするようになって35年以上経つわけですが、彼女の美学は時を経ても変わらず、上質なカジュアルスタイルを求める大人たちの期待を裏切らないところに素晴らしさがあるように感じます。

 

そして、フォーカスするのは〈ドリス ヴァン ノッテン〉。このブランドを38年に渡り指揮してきたデザイナーによる最後のショーで、今年3月の退任発表からついにこの日を迎えました。

舞台に選ばれたのはパリ郊外の街、ラ・クールヌーヴにある巨大な工場跡地。指定された20時半に到着すると、まず案内されたのは箱型の大型スクリーンが設置されたスペースでした。このスクリーンには〈ドリス ヴァン ノッテン〉の軌跡をたどる、ショーの映像やアトリエの風景がランダムに映し出され、時間の経過と共にそのまわりにひとの数が増えていきます。

 

会場にはドリスと共に「アントワープ・シックス」のメンバーであるウォルター・ヴァン・ベイレンドンクをはじめ、〈アミ パリス〉のアレクサンドル・マテュッシ、〈エルメス〉のヴェロニク・ニシャニアンら錚々たるデザイナーの姿もありました。

そこで1時間ほど過ごした後、幕が上がり、訪れたひとたちはランウェーが設けられた隣のスペースへ移ります。客席と客席の間にまっすぐ伸びる舞台が設けられ、そこに積み重なるように敷かれた銀箔はライトに照らされてキラキラと光っていました。

多くのひとが見つめるなか、披露されたのは150回目となるコレクション。それは〈ドリス ヴァン ノッテン〉を語る上で欠かせないトラッドやミリタリー、ワークといった要素を下地に、長いブランドの歩みのなかで手にしたアイディアを包括し、寸分違わず編み上げたような、集大成的な内容だったと思います。

縦に長いシルエットを彩るのは墨流しという日本の伝統的なプリント技法。これで描かれた大きな葉や花は、ドリス・ヴァン・ノッテンが大切にする自宅の庭の景色を描いているようにも見えました。

そして、多くのルックにメタリックカラー、色とりどりのオーガンザや透けるナイロンを重ね、コレクションをより印象的なものへと昇華していました。

 

モデルにはドリス・ヴァン・ノッテンのデビュー間もない時代のショーに出演し、デザイナー本人と共に人生を重ねてきたひとたちも登場。

舞台は年を重ねたモデルが身を包むチェスターコートではじまり、新しい時代を担うモデルが袖を通すチェスターコートでフィナーレを迎えました。

ショーが終わると、スクリーンがあったスペースに今度は巨大はミラーボールが現れ、会場は一気にクラブような雰囲気に。

この一連のステージは、いま振り返っても夢のような時間で、ドリス・ヴァン・ノッテンの最後を飾る本当に素晴らしい内容だったと思います。

 

続いて紹介するのは〈ホワイトマウンテニアリング(White Mountaineering)〉です。「パレ・ド・トーキョー」の地下に広がるスペースを使ったショーは、意表を突くオールホワイトのスタイルではじまりました。

プレスリリースの冒頭にあったワード「Unplugged」の通り、提案されたのは肩の力を抜いたようなリラックス感漂うカジュアルスタイル。ひとつのかたちに固執しないデザインのバリエーションは、ブランドを束ねる相澤陽介さんが世界各地を旅するなかで見てきた風景の連続のようでもありました。

ランウェーには彼の友人でもあるジブリル・シセ、ライアン・バベル、バカヨコら、ヨーロッパ各国で活躍するサッカー選手も登場。さまざまなキャラクターのモデルたちがリズムを与え、コレクションの輪郭をより明確なものにしていました。

 

このブログの最後に触れるのは、今年3月に東京・原宿に旗艦店をオープンした〈キコ コスタディノフ(KIKO KOSTADINOV)〉。近年、〈アシックス〉との取り組みでも注目を集めています。

舞台に姿を現したのは、このブランドならではのモダンなデザインの数々。エスニックな服を土台にしつつ、そこにワークやミリタリー、スポーツといったウェアの要素を掛け合わせているように見えるのですが、この独特なスタイルは唯一無二。コレクションの回数を重ねる度に、ブランドの世界観が際立っているように感じます。

ショーの中盤に出てくる鮮やかな色使いやスペーシーなグラフィックも見どころのひとつ。

ファッションウィークは最終日となる6日目へ。〈サカイ〉や〈ベットフォード〉〈ダブレッド〉のショーの模様は次のブログで。

 

Photo_Filippo Fior, Bruno Staub(HERMÈS), Gorunway(DRIES VAN NOTEN

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