BLOG - 渋井勇一(RASSLIN'&CO.代表 / Mountain Martial Artsディレクター)

しんがりの物語。(Mt.FUJI100 2024)

先週末、日本一のトレイルランニング大会「Mt.FUJI100」が開催された。ぼくは例年通り、スタート地点のこどもの国から第一エイドの富士宮までのスイーパーと、後半130k地点のエイド「二十曲峠」の運営で参加した。

100マイルレースであるFUJI、ハーフレースである70kのKAI、合わせると3000名を超えるランナーが走る。海外から参加する選手も多く、規模的にも日本を代表する大会であり、トレイルランニング愛好家が集まる祭りだ。

例年は13時にスタートするFUJIだが、今年は半日前倒しになり、深夜0時にスタート。スタートと共に闇の中をヘッデンの灯りが駆け出す。昼間とは違ったテンションと魅力があった。

スイーパーは二人で担う。ぼくのバディは10年来のチームメートで、UTMFやWestern States Endurance Runの完走経験もある信頼のおける男だ。ちなみに画像の隣の方はバディではなく、大会プロデューサーの福田六花さんです。

スイーパーはしんがりの選手に付いてコースを進む。ランナーがロストしていないか、救護を要するような事態に陥っていないかなど、大会が安全に進行するようにサポートする大切な役目だ。選手と同様、大会必携品のほか、救護セットや水分などを背負う。

今年も昨年同様に、FUJIはウェーブスタート。最初のスタートから30分後、第4ウェーブが走り始めた後、トイレに残った選手がいないか確認して、バディと二人でスタートする。コース脇にはぼくらスイーパーを応援してくれる方もいて、うれしい気持ちと共に任務を無事全うしなければと気合が入る。

ぼくらの担当は約26キロ。主に林道なので見通しもよく、分岐では誘導のスタッフが立っている。山岳地帯に比べれば危険度は低いパートと言える。制限時間はスタートから5時間で、最後のウェーブの選手は実質4時間30分となる。

林道区間を進む。今年は例年に比べて全体的に速いペースという感じがしていた。夜で涼しいことが影響しているのだろうか。これなら4時間30分くらいで任務を終えられそうと考えながら進んでいたが、20キロ手前の「送電線下」と呼ばれるエリアに入った途端に選手が渋滞で止まっていた。

2018年からこの区間のスイーパーを担当しているので、原因は想像できる。コースに二箇所、少しテクニカルな登り返しがあるのだ。夜間で暗いので、昼間より登るのに苦労する選手が多いようだ。本部に例年は渋滞していない地点から渋滞が始まっている状況を連絡した。

逆にいえば、渋滞の原因はそこだけ。レースはまだ序盤なので、体力のある選手たちは登り切るとダッシュしていく。渋滞で足止めされている間も制限時間が迫ってくるので、走れるところは走らなければ間に合わない可能性もでてくる。

二箇所目の登り返しを抜けると、しんがりの選手と、その前の選手との差が一気に開いた。しんがりの選手は制限時間に間に合わない可能性があると判断して、ぼくらスイーパーもしんがりの選手につくぼくと、その前の選手につくバディと二手に分かれた。

しんがりの選手は足に不調をきたしているようだ。攣りがひどいとのことで、登りはかなりしんどそう。それでも平坦なところは頑張って走っている。

時おり立ち止まりストレッチをしている。途中、渋滞のために制限時間が30分延長になったと連絡が来たが、それでも間に合うか微妙なところだ。

スイーパーによりけりだと思うが、こういう時はぼくは黙って見守っている。選手は一生懸命に走ろうとしている。そもそもがんばっているのだから「がんばれ」というのも変な話だし、たとえ制限時間内に着いたとしても、その先は山岳区間の天子山地。難しい判断となるだろう。

夜が明けてきた。地図を確認するとエイドまであと1-2キロというところだろうか。残念ながら、制限時間がきてしまった。

それでもしんがりの選手は平坦な場所は走っている。走ろうと努力している。胸を打たれるシーンだ。

ようやくエイドが見えてきたところで、突然しんがりの選手が振り向いて、

「ありがとうございました。ひとりではとても山の中を進めませんでした」

とお礼を言ってくれた。

「ぼくらは選手を安全に次のエイドまで届ける役目なので、気にしないでください」

とお返事したものの、うれしかった。

エイドからも選手が見えたのか、エイドスタッフがカウベルと声援で迎えてくれる。最後、少し登っているが、しんがりの選手はしっかりと走ってエイドに到着した。

「ナイスランでした。」

と言葉をかけた。

ぼくの持論だが、トレイルランニングには100人のランナーがいれば、100のドラマがある。トップランナーやフィニッシュ地点でのしんがりの選手は、テレビのドキュメントでそのドラマを見ることができるかもしれない。

でも、最初の区間のしんがりの選手にも、記録上は「DNF」だとしても、その方だけのドラマがある。選手たちは自分自身のドラマを生み、ぼくらスタッフはそのドラマに立ち会う。それが喜びであり、誇りでもある。

エイドに到着する直前、目の前には大きな富士山が見えていた。

「富士山、綺麗ですね」

としんがりのランナーに話しかけると、

「最後まで見たかったです」

と、彼は言った。

今日はここまでで充分。また来年見ればいい。ドラマは続く。

無事に大任を終えたバディと。おつかれさまでした。さて、午後からは二十曲峠エイドだ。

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