昨夕、名刺を根管させていただいる各所へお届けした当社メールレターのコラム「ここだけの話」の最新版をここに貼ります。
スーパーマリオの時代
アメリカのニュースで「ブルーカラービリオネア(Blue-Collar Billionaire)」という言葉を耳にすることが多くなった。10万ドル(約1,500万円)を稼ぐ配管工や整備士がざらにいるというのだ。
大卒のホワイトカラーが就職難や奨学金の返済に苦しむ一方で、弁護士などのエリートよりも稼いでいるブルーカラー労働者が増えている。
水漏れ修理が2時間で800ドル。消費者はただ言われるまま支払うしかない。
フォードのCEOは「AIの登場によって、アメリカのホワイトカラー労働者の半数が失業する」と発言した。一方で、酷暑の屋根裏や極寒の地下室で行われる配管工事や空調補修など、身体性と経験が求められる仕事はAIでは代替できない。スーパーマリオはゲームの世界だけでなく実在の世界でも稼いでいる。
アメリカではすでに「知識階級が金持ちになる」という常識が崩れ始めている。
山口周のベストセラー『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』では、MBAホルダーが行う「分析」「論理」「理性」に軸足を置いた、いわばサイエンス重視の経営では、今日のように複雑で不確実な世界を導くことはできないと説く。データを重視すればするほど、誰もが同じ結論に至り、競争優位は失われていく。
だからこそ、世界のエリートはアートを学び、美意識を磨き、感性や直感力を高めることを重視する。合理性や前例の踏襲ばかりでは、ブレークスルーは生まれない。
これからの時代に求められるのは、直感や職人技のような“属人性の高いスキル”なのかもしれない。
寿司職人などはその象徴的な存在だ。AIでもデータでも代替できない領域が、そこにある。
こんな昔話を思い出した。
あるとき、巨大な蒸気船のボイラーが不調になった。何人もの技術者が修理を試みたが、どうしても原因がわからない。
そこで一人の老練なボイラー技師が呼ばれた。
彼はエンジニアたちの説明を静かに聞き、いくつか質問をしたあと、複雑に入り組んだ配管の迷路をゆっくりと見回した。
ボイラーの鼓動のような音に耳を澄まし、漏れ出す蒸気の音を聞き分け、手のひらで数本のパイプを確かめる。
やがて小さくうなずくと、ポケットから小さなハンマーを取り出し、真っ赤なバルブを「コツン」と一度だけ叩いた。
するとどうだろう。ボイラーはたちまち正常に動き始め、船全体が再び力強く動き出した。
職人は静かに道具を片付け、黙ってその場を去った。
数日後、船主のもとに請求書が届いた。金額は1,000ドル。
驚いた船主は抗議の手紙を送った。
「あなたはたった5分しか作業をしていないじゃないか。どうか明細を送ってほしい。」
老職人はすぐに返信した。明細にはこう書かれていた。
・ハンマーで叩いた作業 ……0.50ドル
・どこを叩くべきか知っていたこと ….. 999.50ドル
合計 1,000ドル
ここだけの話。うろ覚えのボイラー技師の昔話のオリジナルをChatGPTで探してもらい、ついでに全体の校正もお願いしてみた。
もうぼく自身、不要なのかもしれない?