
私は20代後半をニューヨークで過ごし、そこで勤務していました。日本の大手メガネ販売会社の支店です。それまでの数年間をその会社の日本の支店、何店舗かで勤務してみて「これはとてもメガネを楽しいものやファッションとして提案していくのは難しそうだ…」と感じていました。そんな中でニューヨーク支店での勤務を打診され「そこに行けば新しい希望が見えるかもしれない!」と考えて転勤を決意しました。
ニューヨークに行ってみると、その考えは的中しました。
日本では老眼鏡を老いの象徴のように捉えてポジティブに楽しむ様子はほとんど見なかったのですが、ニューヨークでは年配の方々が非常にオシャレな小物としてカラフルなタイプやクラシックなデザインなど、さまざまな老眼鏡をカッコ良く楽しんでおり、それを逆に若者たちが憧れの眼差しで見ているような場面も見ました。
また、普段は上品なスーツをビシッと着こなしたウォール街のエリート証券ディーラーが、週末はカラフルな山高帽にかなりファンキーな装いをし、それに合わせて真っ白なメガネを掛けていました。「プライベートとビジネスの僕は全く別人なんだよ!そうやって自分を楽しんでいるんだ!」と素敵にメガネを掛けこなしていました。
1980年代の半ばでしたが、ニューヨークでは既にメガネをファッションアイテムとして捉えることは当たり前になっており、それどころか一緒に歳を重ねていくオシャレなパートナーでもあり、皆
のキャラクター作りやパーソナリティを作り上げる重要なアイテムにもなっていました。
そのようなワクワクする仕事環境で仕事を重ねていく中で、あるメガネに出会いました。当時急速に人気が高まっていた「アラン・ミクリ」のデザインです。1980年代はそれまでのメガネの世界を刷新するような新しいブランドがいくつも登場していましたが、当時の「アラン・ミクリ」はオリジナリティも高く、群を抜いてオシャレな存在でした。
その「アラン・ミクリ」のデザインの中でも、特に私が強い関心を持ったモデルがありました。メタルのメガネですが、珍しかったのはブリッジ部分にアセテートのプラスチックを装飾として配してありました。そのデザインを「アラン・ミクリ」のセールスの人が格好良く掛けこなしているのを見て、私はそのデザインに惚れ込みました。
その「アラン・ミクリ」のメガネを手に入れてから、自分が働いていたメガネ店でも当時のニューヨーカーたちにさまざまなファッション的な提案を重ねて行き、その店の売り上げを倍増させることにも成功しました。
その後、日本に帰ってからその会社の経営企画を行うようになり、30歳の際、別のメガネ販売会社に転職しましたが、そこでもしばらくの間、そのメガネを愛用し続けていました。
私はメガネが視力を補正するのみならず、ファッションやもっと楽しいアイテムとして進化させられるのではないかと考えてメガネ業界を志望しました。しかしながら日本の店舗で数年間働いてみて、保守的な業界の空気の中でその様な新たな視点でメガネを提案していくことがかなり難しいのだと認識しました。ニューヨークで勤務し始め、自分が望んでいた方向へとニューヨークではすでに進み始めていることを感じ、そしてこの「アラン・ミクリ」のデザインと出会ったことにより、メガネは私が希望を感じた方向へと進化していけると確信し、この業界で頑張って行ってみようと決意出来ました。
この「アラン・ミクリ」のデザインとの出会いは、私の人生のターニングポイントになったのです。
そこから30年ほどの年月が流れ、ちょうど私がニューヨークにいた1980年代の後半に「アラン・ミクリ」はニューヨークに店舗をオープンし、そのショップの店長としてフランスからニューヨークに渡ってきた人がセリマです。今ではニューヨークのスターで、ロバート・デ・ニーロ、オノ・ヨーコ、Jay-Zなどを顧客に持つマンハッタンの名店です。そして1990年代に知り合って以来、私は大親友になりました。皆かなり前から縁があったようですね!
セリマは毎年自身の店でパーティーを開催しており、そこで私はアラン・ミクリ氏とも知り合いになり話をするようになりました。

ニューヨークのセリマの店のパーティーで。セリマ(中)とミクリ氏(右)


「グローブスペックス渋谷店」にて。ミクリのメガネをしていないので、拗ねて私のメガネを隠そうとしています。お茶目な人です。
私のターニングポイントとなった1980年代の「アラン・ミクリ」のデザインを復活させたい、と考えるようになり私はミクリ氏本人に、私の方で再生産させてもらえないか尋ねました。ただし当時のデザインはかなりメガネの縦幅が小さく、横長のデザインであったのでレンズデザインは今現在の空気感にあったものにアップデートさせてのリバイバルを申し出たのです。ミクリ氏は私の申し出に対して快諾をしてくださり、私が1980年代から90年代前半にかけて愛用していたメガネを復刻することになりました。


写真上:ブラック/トータス 写真下:シルバー/トータス


ブラウン/ネイビー
そして出来上がったのがこのメガネです。モデル名はミクリ氏への敬意を込めて「Hommage to Alain」としました。ブラック/トータス、シルバー/トータス、ブラウン/ネイビーの3色です。「グローブスペックス」の各店に並び始めました。私にとって思い入れの深いターニングポイントとなったデザインをぜひ試してみて下さい!


掛けているのはブラック/トータス

こちらはシルバー/トータスです