BLOG - フイナム編集部

Day 6:Paris Fashion Week 2025AW

編集部の常重が現地からお届け“していた”、パリメンズファッションウィーク。ついに最終日分です。大変、大変長らくお待たせいたしました! 最後までお付き合いくださいませ。

最終日1発目の予定は、パリメンズファッションウィークに関係する某2ブランドのデザイナー同士による対談。その取材です。9時からの対談に合わせて8時過ぎにはホテルを出発。

この時期のパリは8時でもこの暗さ。なかなか太陽は上がってきてはくれません。吹きつける風もめちゃくちゃ冷たい。あえてのテラス席で熱々のカフェラテを一瞬で胃に流し込み、いざ取材へ。この日の模様は後日フイナムの特集ページでアップ予定なので、楽しみにしていてください。きっと読み応えあると思いますよー!

そして次は〈サカイ(sacai)〉のショーへ。普通ならまず服に目が行くのが当たり前なのですが、ぼくはモデルのヘアメイクに惹きつけられました。おおよそのブランドは、モデルの髪の毛をジェルやオイルでビシッと固めることが多い気がするのですが、〈サカイ〉のランウェイを歩くモデルのヘアは無造作でボサボサで荒々しい。表情もどこか力強く、明らかになんらかのメッセージ性を帯びていました。

25AWでデザイナーの阿部千登勢さんが着想源としたのは映画『かいじゅうたちのいるところ』。自然のなかで生きること、既成概念にとらわれないこと、そして何にも抑制されない情熱と感情の本質をアイテムで表現したと言います。それでモデルの佇まいも野生味溢れるワイルドな感じだったというわけですね。

コレクションを通して登場する大胆なニットファー、そしてアシンメトリーなシルエットと異素材の切り替え。テーラードを軸としたハイブリッドなデザインはやはり〈サカイ〉の真髄ですね。〈アグ(UGG)〉とのコラボブーツも今回のテーマを表現するのに確実に一役買っていました。

〈カーハートWIP(Carhartt WIP)〉とのコラボは今季も必見。キャンバス地とニットの切り替え、ダウン…、そして要チェックなのはやはりレザーでしょう。斜めにジップが走ったライダースタイプ。最小限に施された表のデザインのなかにも、〈サカイ〉らしいアレンジセンスが光ります。国内の展示会で試着するのが楽しみです!

次に向かったのは韓国のブランド〈ウーヨンミ(Wooyoungmi)〉のショー。同国のラグジュアリーを牽引する存在です。

ドレッシーなスタイルを中心に、ハードなレザーや軍もの由来のアイテムがちらほらと。シルエットとカラーリングが秀逸でした。基本的にトップスの丈は短め、そしてタイト。

個人的にグッときたのがこのレディースの2ルック。裏地の使い方、丈感、肩の落ち感、色味、すべてにグッときました。品がいいだけでは小っ恥ずかしい。無骨なだけだと素っ気ない。そのバランスの取り方が絶妙でした。

日本での認知度はそこまで高くないのかな…? 狙っていきたいブランドです。それどこの? って聞かれたいし(笑)。

次は〈エルメス(HERMÈS)〉のRe-seeへ向かいます。

リード無しの犬も、日常的に行われるデモにも慣れてきました。いや、犬はちょっと怖いか。ちなみに犬は人より信号を守ってましたね。パリドッグ、恐るべし。

前回のブログでも書いた通り、25AWの〈エルメス〉は全体的に着丈が少し長め。そして年間のテーマとして「ドローイング」が掲げられている通り、絵画のように繊細なタッチで描かれたアイテム群が並びます。

深紅のレザー、幾何学模様のムートン、最高ですよね…。日本でもなかなか手に取ることのできないアイテムに直接触れることができて本当によかった。

小物はこんな感じ。これが似合うような歳の重ね方をしたいもんです。定番のアクセサリーも、今回はメタルとレザーの異素材を組み合わせたデザイン。全体的にもちろん“品のよさ”みたいなところは醸し出しつつも、どこか男臭さのようなエッセンスも感じました。クラッチバッグとかもそうですよね。

続いて〈ダブレット(doublet)〉。

シーズンテーマは「VILLAIN」、“悪役”です。だれかにとっての正義は、だれかにとっては悪かもしれない。そしてその逆も然り。欠陥、ズレ、役立たず…。デザイナーの井野さんは、そこへの秘められた無限の可能性をアイテムに投影したと言います。

今季も〈ダブレット〉ワールド全開のラインナップ。そこにどうしても目がいってしまいがちだけど、井野さんは業界きっての素材オタク。というより探究心が凄まじい。そこで前述した“欠陥”というワードに繋がるのですが、下敷きのようなプラスチックのような素材は曲げるとシワ部分が白化しますよね? それはその部分が微細なヒビ割れによって破壊されるかららしいのですが、どうやらそのときにできる小さな穴、つまり“欠陥”に機能を閉じ込め防虫効果を付与した素材が存在するんです。その素材との出会いが今季のコレクションテーマ、そして軸になっているみたいです。

突飛なデザインの裏に隠された井野さんのメッセージ。そういう部分を知ってからあらためてアイテムを見ると、違ったよさが見えてきます。善か悪か、先入観を持たずフラットに素材と向き合い、デザインと向き合い、そこにユーモアを加える。パリで圧倒的盛り上がりを見せる〈ダブレット〉のショーは、井野さんの人柄そのものを表しているのかもしれません。痺れました。

そしてついに今回のパリメンズファッションウィーク最後の予定、〈ターク(TAAKK)〉のショーへ。

会場はセーヌ川にまたがる橋の下。最後の予定にふさわしい、厳かな雰囲気です。

「どうなってんだ…?」というのが正直な感想。いわゆる異素材の組み合わせだとか、異なるアイテムのドッキングとかであれば理解はできるんですが、どうしても繋ぎ目が見えない。

スカジャン×テーラード、Tシャツ×ライダースジャケット、ウールツイードとコットンシャツからはファーが生え、ひとつのアイテムとして形を成しているんです。自分のなかでいちばんしっくりくる表現が“キメラ”。違和感のない、多種がまざりあった一個体というような…。

ほら、近くで見てもよく分かんないですよね? 〈ターク〉が長年研究し、進化を続けるグラデーションファブリック。どうしてもディテールが気になるので、今週東京で行われる展示会で根掘り葉掘り聞こうと思っています。

そうして幕を閉じた2025AWパリメンズファッションウィーク、そしてぼくのパリ出張。

視覚的に受ける刺激は言わずもがなですが、初日のブログでも書いたように、五感すべてに訴えかけてくる凄まじいパワーがパリメンズファッションウィークにはあります。テーマにリンクするBGM、モデルの歩くスピード、目線や顔つき、ヘアメイク、光の当て方、そしてその色、またライウェイの幅や高さ、広い会場の使い方。ブランドごとに異なるそれらは果たして何を表現しようとしているのか。

まるで謎解き、そして形の異なるピースを組み合わせて完成するパズルのようです。ブランドごとに異なるちょっとしたニュアンスの違いに気付き、その意図を齟齬なく汲み取れる、そんな編集者であり続けたいと心から思った1週間のパリ出張でした。

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